“アトラクシアの決戦”前編

●世界樹 ユグドラシル
異質な雰囲気を持つ黒ずくめの少女が、ラピスの元を訪れていた。『地球』を知っているものなら、彼女の衣装を『和風』と形容するかもしれない。

「ラピス様、お初にお目に掛かります。御影清十郎の四女、零夜と申します。父より言伝を預かって参りました。『帰還の兆候が見られる』と」

「レベルは?」

「始まりの時に近いようです」

「そうか。ここを手に入れ次第、すぐに向かうと伝えてほしい」

一瞬の間。

「恐れながら、それだけでは十分で無いようにお見受けいたしますが」

「君はどこまで知っている?」

「何も聞かされてはおりません。お言葉にそのような『つき』を感じました」

「無用な心配だ。アトラクシアが手に入れば準備は整う」

「これは失礼を申し上げました。言伝は確かに。それでは、お暇いたします」

「この世界の終わりを見届けなくていいのかい?」

「それこそ、無用な心配でしょう。約束の地でお待ちしております」

零夜と名乗る少女は虚空へと姿を消した。
ラピスは記憶を遡り、得心する。

「百年程前、御影は最高傑作が生まれたと言っていたか」

●炎都 ヴェル・サヴァリア

アリスが具現化した災厄を次々と切り裂いていく。
しかし、アリサリスの三女神とイフリートグラスの猛威は留まることを知らず、戦いは長期化の様相を呈していた。

「風光明媚! って、きりが無いなあ。ねえ、ズバッとあいつ斬れないの?」

かぐやは目前に迫る炎を打ち消しながら、アリスに話し掛けた。

「あいつ自身は私達と一定の距離を保っている。あの女神達の時空を歪める力が邪魔ね。それに……」

「それに?」

「時間を稼いでいるように見える」

「どういうこと?」

「私達を倒す以外に、何か狙いがあるってこと」

「ふむふむ。とりあえず、あいつを追い込めばいいんだよね?」

「出来る?」

「任せて、私に秘策があるの。名付けて、兎ちゃんローラー作戦!」

「そのまんまな感じがするけど……」

「アリス、ちょっと時間を頂戴」

「分かったわ」

アリスは自らへ光を集め、対するかぐやの周囲を希薄にする。それはエクスカリバーエクスの、対象から敵の意識を遠ざける力。しかし、代償として、アリスには敵の攻撃が集中した。

「ごめん、アリス! 頑張って!」

「大丈夫よ、簡単にはやられないから。でも急いでくれると助かるわ」

「うん、じゃあ、始めるよ!」

『朔より初めし 闇の珠 白露が跡を銀鉤に追えば
上弦の華 彼の者へ降り注ぐ 我 今 天満月に望まん 覚醒せし 兎の饗宴!』

「いっけー! 兎ちゃん、ゴーゴー!」

かぐやの詠唱が終わると、頭上には幻想の月が浮かび、そこから数えきれない数の兎が押し寄せて来た。炎すら押し流すように雪崩込む兎の群れ。その頂点で一際大きな兎に乗り、群れを指揮しているのが、かぐやだった。
かぐや達は徐々にアリサリスとの距離を縮めていく。スポットライトを彷彿とさせる月光が上空から差し込み、アリサリスの居場所を正確にサーチしていた。

「逃がさないったら、逃がさない!」

「無駄な小細工を」

「小細工でも、破られなきゃ立派な細工になるんだって。どう? 全方位からの攻撃なら逃げきれないんじゃない?」

「あの月が動力か」

月へと目を向けたアリサリスは、イフリートグラスから炎の瘴気を生み出した。その瘴気は三女神の過去、現在、未来を司る力によって、時間軸を跨いで拡散されていく。月の光は最初から存在していなかったかのように、炎に覆い尽くされてしまった。

「あちゃー、まずったかな」

「逃げ道は封じた。ここで朽ち果てるがいい」

「なんちゃって。それは私のセリフ! 兎に追われて不思議の国に迷い込んじゃったね!」

「違うわ、私のセリフよ。かぐや、危ないからどいて!」

かぐやの後ろから、アリスの閃光が走る。アリサリスは、かぐやの兎を振り払う為に三女神の能力を使用した。それは一瞬ではあったが、自らを守る能力の解除を意味していた。その好機を今のアリスならば見逃さない。超高速の一撃。
強烈な光の内に、アリサリスとイフリートグラスは砕け散った。炎の瘴気は晴れ、ヴェル・サヴァリアの全景と共に、アリサリスの狙いが露わとなる。

「瘴気で遮られていたのね、ラピスの気配が戻った。あいつは……世界樹にいる」

「ありゃ、また戻らなきゃいけないのか」

「早く行きましょう。世界の崩壊は、もう始まっている」

「私は兎ちゃんに乗ってくけど、アリスも乗る?」

かぐやが言い終える前に、アリスは遥か先を飛んでいた。

「ちょっ……待って待って! 待ってったら!」

“アトラクシアの決戦”中編に続く

2016年9月14日 水曜日

物語"希望への脱出"