“アトラクシアの決戦”中編

●炎都 ヴェル・サヴァリア
アリサリスが倒れると、ヴェル・サヴァリアの炎は消え、時の牢獄は開放された。その中にいたのは一人の騎士。名をラースという。

「早く向かわなければ……」

彼は聖王ファリアが治めていた地、グロリアを目指した。

●世界樹 ユグドラシル
その頃、世界樹では、十二使徒と呼ばれる魔物を率いるラピスが、アトラクシア吸収の儀式を行おうとしていた。かつての『地球』であるレガリア、ジ・アースと共に。

「アリサリス、おかえり。すまないが、もう少しだけ働いて貰うことになりそうだ」

配下の敗北を魂の帰還によって察しながらも、動揺の色は微塵も窺えない。

ラピスは世界樹に接触した。抵抗を試みようとするその力を、自らの強大な魔力で容易く抑え込む。

「世界樹よ、僕の力となれ」

悲鳴がアリスへ響いていた。

「アリス、大丈夫? 顔色悪いよ」

「世界樹が悲鳴を上げている……。力が失われる前に、あいつを倒さないと」

「顔色だけじゃない、心も」

「心配しないで。あいつだけは、絶対に殺——―」

「アリス!」

「ごめん、大丈夫よ。行きましょう」

七王会談が行われた霊樹の丘が見えて来た。アリスは思い出す。この世界を作っていた人達のことを、そして、ファリアのことを。

「この世界を守らなきゃ……」

アリスの声は内なる存在へも届いていた。しかし、彼女と共にあるもう一人のアリスは、まだ何も言わない。そして、ついに目前には。

「見付けた、ラピス」

世界の崩壊と吸収は始まっていた。

●聖都 グロリア
ラースが戻ったとき、グロリアは混乱の渦中にあった。七王会談でファリアは行方不明となり、ヴァランティーヌ侵攻が深い傷跡を残していた。

「国の皆、妹達よ、すまない。苦労を掛けたな」

彼は妹のシャルロッテを助ける為にヴェル・サヴァリアへ向かい、アリサリスによって時の牢獄に捕らわれた。

それから十年以上の時を経た今、ファリアを失ったシャルロッテは王城の変わらぬ一室で目覚めることがない。

ラースは眠り姫の傍へ行き、その手を握る。

「シャルロッテ、遅くなってすまない」

ラースが祈りを込めると、彼の魂は昇華され、シャルロッテへと引き継がれていく。ヴェル・サヴァリアに隠されていたメモリアに記されていた秘術。

「私は知っている、ファリアは誰よりも強い責任感と芯の強さを持っていること。そして、シャルロッテは誰よりも優しく、世界を変えられる『意志』を持っていること。だから、自分が正しいと思うことを成してくれ。それが私の、最後の望みだ」

魂の輝きの後に、部屋にいるのはただ一人。

「あれ、私……。お兄様、お姉様、どこにいるの? ねぇ、お兄様、お姉様!」

彼女の手には一つのメモリアが、導くように輝いていた。

●世界樹 ユグドラシル

ラピスはアリス達が現れても吸収の儀式を中断することはなかった。

「遅かったね。ジ・アースの生き残り」

あれが敵のボス? 見かけは小さいけど」

「惑わされないで。今までの敵とは比べものにならない魔力を秘めているわ」

「そう……みたいだね」

かぐやもラピスの力を感じ取ったのか、借りてきた兎のように大人しくなる。

「さあ、終わらせようか」

ラピスの配下、十二使徒が動き出す。その一体一体が災厄と等しい存在だった。

「どいつもこいつも、強そうったらありゃしない」

かぐやが溜息混じりに言う。対して、アリスは決意の表情を見せる。それは勝利の為にあらゆる犠牲を厭わないものだった。

「そうね。だから、本気を出すわ。かぐや、サポートをお願い」

「分かった……って、えっ、今まで本気じゃなかったの?」

「本気を出すと大変なの、いろいろと。だけど、やるしかないわね。行くよ、シュレディンガー。召喚モード!」

「みゃお!」

アリスの肩に乗っている白猫が応える。主人の心と性質に、シュレディンガーは影響を受けていた。猫を通して、十二使徒とも渡り合える力、神話の世界の住人を召喚していくアリスだが、ラピスは余裕の表情を崩さない。

「君の本気とはそんなものか?」

「まだよっ!」

シュレディンガーにはもう一つ力があった。それは、魔力を吸収して放出する、魔力ブースターとしての役割。アリスは迫り来る十二使徒の一体を切り伏せると、その力をシュレディンガーへと吸収させる。そして、増幅された魔力を受け取り、一気にラピスへと迫った。繰り出すのは、アリサリスを一瞬で倒した、閃光の一撃。
しかし、その一撃はラピスのレガリアから生み出された漆黒の盾によって遮られる。硬質な闇の奥から、どことなく楽し気な声が聞こえた。

「やるようになったね」

“アトラクシアの決戦”後編に続く

2016年9月21日 水曜日

物語"希望への脱出"