“アトラクシアの決戦” 後編

●聖都 グロリア
心を澄ませば声が聞こえてくる。兄から引き継いだ魂は心の中にあった。

シャルロッテは自らが目覚めた理由を理解していった。
「お兄様、私はこの世界を守る為に戦います。お兄様とお姉様が愛した世界ですから」

シャルロッテの手には、この世界での出来事が記憶されたメモリアがあった。兄から託された過去の記憶は、未来を定める戦いの舞台へと向かう。

●世界樹 ユグドラシル
攻撃するたび、アリスは苦痛に顔を歪めた。自らの力にその体が耐えきれなくなっていたのだ。シュレディンガー、そして世界樹から流れ込む膨大な魔力の使用で、体と心は消耗していく。しかし、それでもまだラピスに傷を負わせることが出来ない。

「アリス、無理しちゃだめだよ!」
かぐやが遠くから心配そうに声を掛ける。

「大丈夫。まだ、いけるから」

戦いが進むにつれ、アリスの体には黒い紋様が浮かび上がっていく。同時に、墨を落としたような斑点がシュレディンガーに表れていた。

「ぬるいんだよ。代わりな、私が殺してやるから」

「黙ってて!」

アリスの内なる声が、今は大きく聞こえ始めていた。

「しつこいって、もう」
かぐやもアリスを助ける余裕が無かった。十二使徒として復活したアリサリスが再び立ち塞がる。

「人は二度も生きちゃ駄目なんだって……私以外は!」

その時だった。


アリサリスの炎が水に飲み込まれていく。初めて見た魔力の奔流に、かぐやは大きく目を見開いた。発生源を見れば、自分と同じ年頃の少女が呆然と立ち尽くしている。何かに驚いているようだが、魔法の杖を手にしているところを見る限り、彼女が放ったもののようだ。

「そこのあなた、すごい力だね!」

「これが……私の力?」

「あれ? どういうこと?」

「あ、すみません。私、あの、グロリアというところから来まして……」

「あー、自己紹介は後あと! 猫の手は……もうアリスが借りてるけど、今大事なとこだから、ちょっと手伝って!」

「はい、そのつもりです!」
アリスとラピスの戦いは終局を迎えようとしていた。一見、拮抗した戦いも、ジ・アースから無尽蔵の魔力が供給されるラピスに疲労は見られない。対してアリスの限界は近い。自らに流れ込む、膨大な力の均衡が綻びれば、相手にも自分にも飲まれてしまうだろう。

「だから言ってるじゃない、私に代われって。この世界に何の義理があるの?」

「……やめて」

「世界を守る必要はない。甘い考えは捨てて、あいつを殺すことだけ考えればいい」

ダークアリスの言葉が心に食い込み始めたその時、

「アリス……アリス!」

かぐやの言葉で正気へと戻ったアリスは、いつの間にか傍らに立っていた少女から、一つのメモリアを手渡された。

「これを使ってください。世界樹と繋がっているアリスさんなら使えるはずです!」

「これは……」

アリスがメモリアに触れると、記憶が流れ込んで来る。

ファリアの決意、メルギスの継承戦、アーラの空に賭ける願い、レザードの悲哀の屍術、そして、マキナの研究。

かつてこの世界に在った英雄の姿を映し出す、七王のメモリア。

「あなた達も守りたいのね。それに……あなたは、シャルロッテ?」

「はい。でも、どうしてそれを……」


「ファリアとの約束を思い出したの。妹に不思議な国の話をするって。だから、待っていて」

アリスは最後の力を振り絞る。

「守らないと。約束を、世界を」

ラピスはまだ世界樹封印の力を弱めてはいない。この世界を吸収しながら、アリスと戦っていた。

「まずは、『地球』を取り返す。シュレディンガー、召喚モード!」

「みゃお~!」

メモリアから英雄達の記憶がシュレディンガーへと流れ込み、具現化されていく。それは七王会談の場景に始まり、最後にはファリア、メルギス、アーラ、レザード、マキナと、個々の姿を現していた。

「みんな、お願い」

ラピスへの道を英雄達が切り開き、最短距離を再びアリスが突き抜けていく。

「無駄だよ」

ラピスは漆黒の盾を展開し、アリスの攻撃を受け止める。その攻撃は今までと同じく弾かれる、はずだった。

「一人では無理だった。でも今は、この世界を生きた人達の、意志と共に在る!」

強い意志の力がアリスを後押しし、盾にヒビを入れる。ラピスは初めて自らの力が押されていくのを感じた。

「返しなさい、私の故郷を!」

そして、ついに盾は砕け、ラピスの手からジ・アースが弾ける。それは、キラキラと輝きと力を宙へ拡散させながら地へと落ちていく。

「かぐや!」

「はいはい、分かってるって!」

かぐやは兎に乗るとすばやく回りこみ、ジ・アースをキャッチした。

「アリス、取ったよ! 心置きなく、やっちゃって!」

見出された勝機への希望に空を見上げたかぐやは、そこでようやく気付いた。月が黒く染まっていることに。蘇える、遠い記憶。

「私、あれを知ってる……」



見間違えるはずがない。かつて千年の戦いを引き起こした、あの黒い月を。

“アトラクシアの決戦”終編に続く

2016年9月27日 火曜日

物語"希望への脱出"