“氷棺の聖女” 第2章 -かぐやの探検 童話の街-

「あれ、ゼロ? それにフィースも! 帰って来れた!」

脱出は成功だった。私は帰って来られて、ほっとしていた。私はここで生まれ、ここで育ったかぐやだから。ゼロにフィース、会いたかった。ともあれ、ゼロには剣を下ろして貰わないと……。切られたら結構痛いし。

こうして、アトラクシアを脱出した私、シャルロッテ、アリスの三人は、ゼロ、フィースの二人と合流し、ライトパレスへと向かった。ライトパレスは童話国家とも呼ばれていて、いくつかの童話のキャラクター達もこの世界に残り、ここで暮らしている。

昔に一度だけ来たことがあるけど、大分雰囲気が変わっていた。それもそのはずで、私が向こうに行っている間にこっちでは二十年の月日が経ったらしい。フィースは次元間のウラシマ効果だねと言っていたけど、ウラシマ? うーん、聞いたことあるような無いような。誰だっけ? ま、いっか。

「私、すっごい久し振りに来たかも。あれ、何かの童話のキャラクターじゃない!? すごいすごい!」

「こちらの時間では二十年振りか? しかし、お前が言うか」

ゼロの突っ込みを受け流しつつ、私はキョロキョロと辺りを見て回る。新しい人生になってからというもの(自覚は余りないけど……)世界は全て新鮮に見えた。

あっちの世界も、最後はあんなことになってしまったけど、見て回るのはとても楽しかった。傍らを見ると、シャルロッテも異世界の文化は気になっているみたいだった。

「活気があってグロリアみたいにいい所……お兄様、お姉様と一緒に来たかったな」


「二人は少し街を見て回って来るか? アリスなら私が、王宮の医師の元まで連れて行こう。後で誰かに王宮の場所を聞いて来ればいい。この街の人なら、誰でも知っているはずだ」

「ふむふむ。私も王様には用があるから、ゼロとフィースの用件が終わりそうな頃にそっちに行くよ! じゃあ、シャルロッテ、少し見て回ろうか」

「はい、分かりました!」

ゼロの勧めで、私とシャルロッテは一旦離脱して、街中へと向かうことになった。行っくぞー、探索探索!

「さて、フィース、王宮に行くぞ」

「僕も街を見て回りたいんだけど」

「駄目だ」

「ちぇ」

ゼロとフィースは街中を抜けて、王宮へと入っていった。私はシャルロッテを見る。

「よし、じゃあ、あっちの方へ行ってみよう」

「えっ、あっちってどっちですか?」

「あっちはどっちって考える前に動くのが私流だよ! どこ行っても楽しいよ!」

「わ、分かりました」

私はシャルロッテを連れて、街へと繰り出した。途中で、二足歩行の子猫と目が合う。

小さな足に履いている長靴が良く似合っていた。雨は降っていないのに、歩きにくくはないのかな? と思ったけど、本人は全く気にしていない様子だった。

シャルロッテも不思議そうに子猫を見ている。

「あんな偉そうな子猫は初めて見ました……」

さらに行くと、お菓子屋さんが見えた。なんと、建物がお菓子で出来ている。余りにも贅沢だ。そこでは仲の良さそうな兄弟がお菓子を売っていた。

「シャルロッテ、危ない!」

私は興味深そうにお菓子を見ているシャルロッテを制止する。

「えっ、何かありましたか?」

際限がないお菓子へのこだわりは時に悲劇を生む。

兄は腕のいいお菓子職人なのだろう、彼が作り上げたお菓子を見ればその腕はすぐに分かる。

対して妹は……お菓子をもりもり食べながら売り子をしている。そして、

「大きな声では言えないけど……妹さん、かなりぽっちゃりしてるじゃない。つまり、ここのお菓子は」

「太る!」

私達はお菓子屋をすぐに追い出された。

「でも妹さんの気持ちも分かります。美味しそうなお菓子でしたから」

ちょっと惜しそうにシャルロッテは話す。少しくらいはお土産に買いたかったなと私も思っていた。さてと、そろそろかな。

「じゃあ、そろそろ王宮へ向かおうか」

「はい、そうしましょう」

「誰かに道を聞かないと。ゼロは、この国なら誰でも知ってるって言ってたけど」

私が誰かに道を聞こうとキョロキョロしていると、遥か向こうから、すごい勢いで狼に乗った少女が走って来た。

「ふふふ、そこのあなた達、お困りのご様子ね! あ、嘘は駄目だよ。嘘を吐いたら地獄に落ちるって、千年前から決まってるの。大丈夫、私に任せれば無事解決! 何でも言ってごらんなさい!」

話し掛けてもいないのに、一気に捲し立てて来る。

その様子に私は危機感を覚えた。この子……少しキャラが被ってない? アイデンティティを尊重する私には、ある意味、大きな敵なのかもしれない。シャルロッテも少女を見て首をかしげる。

「この子、かぐやさんみたいな人ですね」

確定、敵だ。見た時から何故かこの子は気に入らない感覚があった。こうなったら、無理難題を言って追い返すしかない。

「それなら、お願いするわ。これから言う五つのものを持って来て。まず、蓬莱の玉の枝! 次はっ」

「無理!」

「早っ!」

「無理なものは無理! 自分に嘘は吐かない主義なの」

「むむむ。じゃあ、王宮までの道を教えてくれる?」

「それなら、お茶の子さいさい! ふふふ……嘘じゃないよ!」

私とシャルロッテはその少女に王宮への道を聞くと、その通りに向かったのだった。

王宮では用件の終わったフィースシングとゼロがかぐや達を待っていた。

「おかしいな。僕の予想ではかぐやが街を見るのに飽きて、とっくに王宮に来る時間なんだけど。何かイレギュラーな事態が起こっていると考えるべきかな」

「単純に予想が外れただけじゃないのか? もっと街を見ているのかもしれないぞ」

「それは、ないと思うんだけど」

その時だった。王宮の扉が勢い良く開き、兎に乗っているかぐやとシャルロッテが入って来たのは。

「着いた着いた。ふう、疲れた。思いっ切り走っちゃったよ」

「何かあったのか?」

ゼロが私に聞いて来た。あー、思い出してもイライラする。どうして、あんな嘘に。

「それがねっ、聞いて聞いて! 途中で女の子に道を聞いたんだけど、その子が自信満々に言ったことが嘘で、とんだ遠回りをしちゃった」

急いで来た影響で、兎の上で揺られに揺られたシャルロッテは完全に目を回し、ふにゃーと唸るのみだった。

「かぐやが騙されるなんて珍しいね。大抵の人の言葉なら、直感的に嘘か本当かくらい分かるはずだけど」

「いや、その子がさ『王宮だね。もちろん、知ってる知ってる。向こうに大きな時計台が見えるでしょ! その時計台が常に右手に見えるように、この都市を一周した所にあるよ! ふふふ……嘘じゃないよ!』って言うから、その通りに行ったら」

「その通りに行ったら?」

「元の場所に戻ってたんだよ!」

やれやれといった素振りを見せるゼロ。でも、フィースはそうじゃなかった。むしろ、何かに感心した様子だった。

「その話、重要なのは騙されたことよりも騙せたことだね。かぐやを騙せたということは、それだけその嘘に力があるってことさ。言葉の力は発するものが持つ存在の重みに比例する。嘘が軽くあればあるほど、逆に存在は重くなくてはならない」

「まあ、その少女の考察は後にして、まずは、かぐやの用件をグリム王に伝えねばなるまい」

とゼロが私に促す。目前にはグリム王もいた。

「そうだった! 私はこのジ・アースを再生する為にこの世界に戻って来たの。今は壊れてしまってるんだけど、これを再生出来ればラピスっていう、私達がいた次元を滅ぼした敵に対抗出来ると思う。だから、ルミアの力を借りたくて……再生の力を持っている、ルミアの」

「それならば、私達がちょうど探しに行く所だ」

「えっ、そうなの?」

ちょうどいいタイミングだった。ただ、探しにいくということは、ここにはいないということだから、それはちょっと困る。
「ちょっと待った!」

その時、少女が一人、王の間に現れた。狼を連れた、あの少女は。

「あ、私を騙した女!」

思わず声を上げた。現れたのは街中で私達に嘘の道を教えた子だった。

「私、ルミアの居場所、知ってるよ! ふふふ……嘘じゃないよ! ほんとだって、信じて信じて。真っ赤な私が言うんだから間違いない!」

見た目には真っ赤な所なんてどこにもない、その少女の名前はルーニャと言った。かつてのライトパレスから始まった赤い月の童話を彷彿とさせる、そんな物語の始まりだった。

“氷棺の聖女”次章に続く

物語"氷棺の聖女"

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