“氷棺の聖女” 第3章 -ミリアムの鼓動-

声が聞こえた。あれはゼロさん……じゃなかった、師匠の声だ。僕は王の間の影から、話を聞いていた。父は六賢者の二人を呼び出したらしい。

「良く来てくれた」

「ゼロとフィースシング、召集に応じ、馳せ参じました。至急の用件とは何でしょうか?」

「ルミアからの連絡が途絶えた」

「ルミア様からの連絡?」

「君達もルミアが世界復興の為に各地を回っているのは知っているだろう。ルミアからは定期的に連絡があったんだが、それが最近になって途絶えている。最後の連絡は不思議な魔石を見付けたというものだ。二人にはルミアを探して貰いたい」

「最後に連絡があったのは、どの辺りでしょうか?」


「詳しい場所は分かっていないが、不思議な魔石を見付けたのは、この辺りらしい」

父は地図を広げ、その場所を指差していた。それは、クレル氷山に程近い場所だった。この辺りまで行くと、麓に羊飼いが少し住んでいるくらいで、人はほとんど住んでいないはず。どうしてあんな所まで? 世界復興の旅なら、人がいない場所に行っても意味はなさそうだけれど。

「かしこまりました。必ず探し出して参ります。フィースもいいか?」

「なるほど、不思議な魔石だね」

「何か知っているのか?」

「僕の推測が正しければ」

「正しければ?」

「もうすぐ、かぐやが来る」

「……それは私でも分かる」

フィースさんは相変わらず掴みどころの無い人だった。師匠も一緒にいて、いつも苦労していると言っていたし。それからは、怒涛の展開だった。かぐやの登場と、それに続いて狼を連れた少女まで現れた。特に後に現れた少女は控え目に言って、とても胡散臭かった。

「ミリアム、そこにいるか?」

一部始終を見ていたことが父にはあっさりとバレていた。全て気付いていて、今、声を掛けたのだろう。

「はい、父さん」

「ミリアム、お前には私の代わりに一緒に行って貰いたい。私はこの国から離れる訳にはいかない。お前もそろそろ旅に出てもいい歳だ」
「僕もそう思っていました。ルミア様を必ず、探し出して参ります」

「大丈夫だと思うが、無理はするな。ゼロとフィースシングも付いている」

「はい、分かりました」

「ゼロとフィースシングも、頼んだ」

「承知しました。私もミリアムに剣を教えた身。彼の成長と、無事の帰還をお約束します」

その頃、少し離れた場所で、かぐやと狼の少女は取っ組み合いの喧嘩をしていたが、誰も止めることは出来ない……というよりも、止めるつもりが無いようだった。僕も見ない振りをして旅の準備を進めに向かう。そうだ、母さんにも挨拶をしていかないと。僕は母さんの部屋へと向かった。母さんは旅立ちを知っていたかのように僕を迎えてくれた。

「ミリアム、旅立つのですね。では、この希望の箱を持って行きなさい。必ずや助けになることでしょう。私はいつもあなたの無事を祈っています」

「はい、母さん、ありがとう。行って参ります。そうだ、フィースさんから預かった、アリスさんは大丈夫ですか?」

「今は小康状態を保っているみたいなの。王宮でゆっくり休めば良くなるはずよ。私に任せて、心配せずに行って来なさい」

母から箱を受け取り、旅の準備をすると僕は王宮へと戻った。

そこでは、かぐやと狼の少女のいがみ合いはまだ続いていた。


「ゼロ、ミリアムには父譲りの童話を操る力があるって言ってたっけ? それに剣も使えるってことだけど」

「そうだな。童話の扱いに関してはグリム王には及ばないと思うが、剣技の才能はなかなかのものだ」

師匠とフィースさんが僕についての話をする。自分の力がどの程度のものか、この旅で試せるかもしれない。

「二人とも、そろそろ行くぞ」

「きー」

「うー」

終わりのない兎と狼の喧嘩は二人が師匠に首根っこを掴まれて収束したようだった。狼の少女の名前はルーニャというらしい。父は彼女に何かを感じたのか、旅への帯同を許していた。もしかしたら、昔に聞かせてくれた赤い月の童話を思い出したのだろうか。僕には良く分からないけれど、この少女とあの『赤い』少女は何処か似ていたのかもしれない。

「今の所、漠然とした取っ掛かりしか無いからね。僕はルーニャの話を聞くのもありじゃないかなと思うよ。何より面白そうだしさ」

フィースさんは肯定的だった。

「そうそう! ルミアから、魔石だって預かって来てるんだから」

「えっ、それを早く言いなって!」

ルーニャの言葉にかぐやが反応する。魔石、つまり、ルーニャの持っていた魔石は、ルミア様が見付けた不思議な魔石ということなのだろうか?

「ビックリしないでね? ふふふ、嘘じゃないよ……」

その嘘は何に掛かっているのだろう? 口癖のような言葉と共にルーニャが取り出した魔石、それは一見して、普通の魔石に見えた。かぐやと師匠がそれに触れても不思議なことは起きない。

「何の変哲も無さそうだけど……」

かぐやは不思議そうに、その不思議でなさそうな魔石を見ていた。

「僕にも見せて貰えますか?」

しかし、僕がその魔石へと触れた瞬間、弾けたような感覚が体を駆け巡った。感じたのは何かの不安定な『力』。

そして、爆発的な『力』の鼓動。それ等は僕に力を与えようとするが、余りにも強力で、飲み込まれないようにするのに必死だった。

「ミリアム!」

師匠が僕に声を掛ける。僕は魔石を手放すと正気に戻った。

少しの間だけだったのにも関わらず、大きな疲労感がある。この力は一体どこから?


「この魔石はミリアムに反応するみたいだね。とても不安定だけど、大きな力を感じる。この世界のものではない『力』を」

「フィース、分かるのか? ひとまず、この魔石は私が預かっておこう」

「その方がいいと思う。その時が来るまではね」

シャルロッテは少し怯えた表情をしていた。

「少し、世界の最後に見た力に似ている……かもしれません」

「ラピスと同じ力……」

かぐやも同じことを感じているようだった。ルーニャは何か知っているのだろうか?

「ビックリしたでしょ。説明が欲しいようね。だけど、実はね……私も何も知らないの。だから私もビックリよ。ふふふ……嘘じゃないよ。ルミアに渡して来てって言われただけだから。さて、出発出発!」

こうして、僕の旅は始まった。それは、全ての人にとって過酷な運命の始まりだった。

“氷棺の聖女”次章に続く

物語"氷棺の聖女"

FoW World - ストーリー

FoW World - ストーリー

FoW World - ストーリー

FoW World - ストーリー