“氷棺の聖女” 第4章 -嘘吐きの少女-

私はどこで生まれて、どこで育ったのだろう。

気付いた時、私は既に星空の下にいた。見上げれば星々が輝き、夜を彩っている。雲一つない、綺麗な夜空だった。でも、雲一つないのに『あれ』は見えない。その違和感は寂しさを伴って、記憶の無い私の心に穴を開けていた。

そうだった。でも、『あれ』って一体、何だったっけ?

「さて、出発出発!」

私は声を掛ける。ルミアの居場所は分かっていた。正確には『何故か分かる』だけど、知っているという点で嘘は言っていない。少し前のこと、ルミアは私がいた村を訪れて、こう言った。「懐かしい感覚に惹かれて来たけど、あなたたち、ここにいたのね」と。でも私がルミアに会ったのは、この時が初めてだった。

「そうね。ふふふ……久し振りね」

にも関わらず、私は思わず嘘を付いた。

これは、私の癖だった。まるで何かに取り憑かれているかのように嘘を吐いてしまうのだ。

「本当は覚えていないでしょうに、相変わらずね。まあ、いいわ」

ルミアは「少なくとも今は害は無さそうだし。でも、念の為」と言うと、私に対して何かの魔法を使った。

それは魂をリンクさせる魔法だった。

「これで、私はどこにいてもあなたが分かる。だから悪さは駄目よ、赤女。そうそう、私はルミア。よろしくね」

赤女? 真っ赤な私が言うんだから間違いない。これは確かに私の決めゼリフだったけど、どう見ても私は赤くはなかった。この人には何が見えているんだろう?

ルミアの使い魔が私の元を訪れたのはそれから少ししてのことだった。その使い魔は不思議な魔石とメッセージを届けに来ていた。ライトパレスへ行って欲しい、あなたなら、私の場所が分かるはずだから、と。

それを聞いた私は親友の狼と共に颯爽と駆け出した。ルミアの頼みを聞いた訳じゃない。これは、私の心に開いた穴を取り戻す旅になる。そう思って。

ゼロとフィースシングの二人が何か話し合っている。二人の話し合いが終わるとゼロだけがこちらへ向かって来た。

「ルミア様の捜索は私とミリアム、シャルロッテとルーニャの四人で行う。フィースシングとかぐやは別行動だ」

「えっ、そうなんですか」

シャルロッテが心配そうに声をあげる。

「フィースには思う所があるらしい。あいつは風みたいなものだ。止めても行ってしまうだろう。ルミア様の捜索は四人で問題無い。あるとしたら」

ゼロが私の方を向く。

「私? 怪しいとこなんて一つもないって! 大丈夫だから、大きな狼に乗ったつもりで安心して!」

「そういう所が怪しいんだがな」

それにしても、あのかぐやが別行動なのは嬉しかった。私はあいつが最初から気に入らなかった。最初に会った時に猛烈な嘘を吐いてしまったのも、まるで千年も前から宿敵であったかのような感覚がそうさせたのだ。何故かは分からないけど。

「行くぞ、ルーニャ。案内を頼む」

「任せといて!」

私が感じるルミアの居場所はライトパレスから遥か北にあった。そして、ある一定の場所に留まっていて、動いていない。誰かに囚われていると考えるのが自然だろうか。

「ルミア様とルーニャはどういう関係にあるんだ?」

ゼロが私に問う。それは、私が知りたいことだった。

「話せば長くなるけど、ルミアと私は生き別れの姉妹なのよ。でも、私には生まれながらに重大な病気があったの、月を見ると狼になってしまう病気が。だから捨てられて……」

しまった、思わず嘘を吐いてしまった。あれ、でも今、私、何か変なこと言ったような……。それを聞いたゼロは呆れるように言う。

「まあ、案内さえして貰えれば問題無い。それだけは頼むぞ」

ミリアムは大丈夫かなと言う表情で私達を見ている。

「大丈夫大丈夫!」

私がミリアムを勇気付ける為に掛けた言葉は。

「えっ、不安だ……」

逆効果だった。

旅は続き、ルミアの感覚が近付くにつれて、気温が一気に下がって来た。凍った湖に森、空気でさえ張り付いてくるような寒さだった。それは、ある一点を越えてから顕著になっていた。つまり、これは……こういうことだ、うー、寒い。

「師匠、この寒さは」

「ああ、分かっている」

「じゃあ、やっぱり何らかの結界が?」

三人は思う所があるらしい。うー、寒い。私はただそう思っていた。

「あれは一体、何でしょう?」

ミリアムが指を差す。その先には人型のロボットのようなものがいた。

「あ。あいつに見付かるとやばい。いや、本当だって」

私は咄嗟に答える。いつも通り、適当に答えただけだったけれど、あながち間違ってもいなさそうだ。そのロボットがこっちを向いた。目線の先にはミリアムがいる。あれ、見付かったんじゃないだろうか?

「見付かったな、私が行く」



私の横にいたゼロが動く。瞬時にそのロボットの横へ行くと、剣の一振りで両断する。やった! と思ったのも束の間。それこそが罠だったらしい。そのロボットが停止すると同時に発動する罠。内部から現れた氷の枷が、ゼロの動きを封じていた。

「ちぃ」

「師匠!」

「私は大丈夫だ。それよりも警戒を怠るな」

「みぃーつけた、みーつけた」

空を飛んでいる、変な悪魔。あれも敵だろうか。

その奥に、見たことのない魔導師がいる。更にその先には、氷に閉じ込められたルミアも見えた。この状況、やっぱり敵か。

「来たか。単刀直入に言う。お前達には死んで貰う。アスタロト、来い」

「またデスかぁ? 悪魔使いが荒いんだからね、メリクリウスは」

「一言多いぞ」

「へいへい」

アスタロトと呼ばれた悪魔が魔石へと形状を変え、メリクリウスの武器に装着される。力の増幅を感じた。来る。

「ルミア様はこいつに閉じ込められているようだな……来るぞ、気を付けろ。この力は特殊だ」

ゼロ自身も枷を外すのに手間取っているようだった。この敵の力はライトパレスでミリアムが発した力に近いものだ。この世界のものではない魔力から発せられる魔法。

「死ね!」

メリクリウスの言葉と共に氷の槍が空から降り注ぐ。ミリアムは童話のキャラクターを、シャルロッテは英霊を召喚し、それ等に対抗していく。

私は空を眺めているだけだったが、不思議と危機感を持たなかった。私が見ていたのは氷の槍ではなく、遠くに見える『あれ』だった。何か、何か、もう少しで思い出せそう。そう、あれは。遥か向こうの空に月が浮かんでいた。かぐやが創り出した、幻想の月だ。月。何故、私はあれが月と分かるのだろう。そして、かぐやが作ったものだって。私の記憶には『月』なんて概念すら存在しないはずなのに。月、つき、嘘吐き。……そうか、私が騙しているのは私自身。あの時と同じ。違うのは……私が、今は人間としても生きているということ!

「ルーニャ、避けるんだ!」

ミリアムの声がする。でも、避ける必要は無い。危機感を持たないのも当然だった。だって、危機ではないのだから。全身に力が駆け巡る。紅い紅い力が。

「ルミア、すぐに助けてあげる。ふふふ……嘘じゃないよ」

「その姿は……まさか」

ゼロが驚愕の声を上げる。私の姿が紅く変わったからだろう。辺りは私の力によって禍々しい空間へと変化していた。そして氷の槍は、ルルイエから来た異形の生物によって、食い尽くされていた。

「安心なさい、今回は味方だから。ふふふ……ルルイエへようこそ、皆さん」

“氷棺の聖女”次章に続く

物語"氷棺の聖女"

FoW World - ストーリー

FoW World - ストーリー

FoW World - ストーリー

FoW World - ストーリー