“氷棺の聖女” 第5章 -フィースシングの予感-

これが古代の力なら……僕の予感は現実のものとなりつつあるようだった。ルーニャの所持していた魔石は適合者のみに力を与える類のものだろう。何故、ミリアムが適合したかは分からないが、今その謎を解く必要は無い。

「少し、私の世界の最後に見た力に似ている……かもしれません」

「ラピスと同じ力……」

シャルロッテとかぐやは向こうの世界で何かを見て来ているようだった。氷山にいるルミアを探すのが重要なのは間違いない。しかし、全体の問題に対して言うなら、文字通り氷山の一角だ。さて、どうしたものか。

「ゼロ、ちょっといいかな?」

「どうした、フィース」

「今回、僕とかぐやは別行動を取ろうと思う」

「何故だ?」

ゼロは千年経って、より真面目さに磨きが掛かっている。適当な理由では食い下がって来るに違いない。

「これから先、他の六賢者の力が必要になる。だから、僕は六賢者を探索する方向で動こうと思ってる。まあ、ルミア捜索はゼロにミリアム、シャルロッテにルーニャで大丈夫だしさ。それに力を集中しすぎても効率は悪い。手分けして動こう。それで……かぐやは六賢者絡みならこっちの方が適任だから、私と一緒で」

「えっ、私? 何も覚えてないけど」

かぐやが余計なことを言うが、これも予想の範疇だ。

「その内思い出すから、大丈夫だよ。大丈夫大丈夫」

刷り込むようにかぐやへと伝える。かぐやは刷り込みに弱いのは昔から実証済みだ。

「ふむふむ。なら、大丈夫大丈夫!」

「それなら、いいが……」

「危なかったら呼んでくれていいよ。今度ばかりはすぐ駆けつけるから、約束だ」

「お前が約束と言う時は、守らない時だろう」

「あ、嘘は良くないよ!」

ルーニャが嘘というフレーズに反応して、脊髄反射のような返答を見せていた。僕はこの子の正体を薄々予感しているが、それはそれで悪いようにはならないはずだ。むしろ『今回』に関しては頼れる味方になってくれるに違いない。

「よし、兎に角そういうことで、ここで一旦別れよう。ルミアを助けたら、また王宮で合流しよう」

僕とかぐやはライトパレスを後にした。

「向こうを助けないでいいのかな? 危険な目に遭う可能性もありそうだけど。私はシャルロッテが心配だし」

かぐやが心配そうにライトパレスの方を見ている。

「大丈夫だよ。多分、危険なのは」

「ふむふむ」

「僕達の方だから」

「ぶっ」

かぐやが吹き出した後、「そうなんだ」という言葉が届いた。僕がいるからと言って安心させるが、今回は僕にも相手の姿は完全には見えていない。さて……鬼が出るか蛇が出るか。

「取り敢えず、来客がいるから、お迎えしないとね」

「来客って?」

「悠風よ、幻惑を解き破り、伏在せし者を我が前に示せ。聖封烈波!」

空に溶け込んでいた結界を風が吹き払う。二重に組まれていたそれはかなりの上級魔法だ。普通は気付くことさえ出来ないだろう。そして風の先には黒い男――吸血鬼の姿があった。

「ほう、私の存在に気付くとは」

「風がある限り、僕に気付けないことは無いよ。で、君は誰?」

「御影だ」

「聞いたことのない『響き』だね。この世界のものじゃないな」

「そうだな。だが、君が聞きたいのはこうだろう?『敵』か『味方』か」

「いや、どう見ても敵でしょ!」

かぐやが代わりに答えていた。僕は今にも飛び掛かりそうなかぐやを制す。

彼の言葉からは、まだ図りかねるものがあった。それに今戦うのは得策ではない。僕の直感がそう囁いている。

「味方には思えないけど、完全に敵って訳でも無さそうだ。誰かを待っているのかな?」

「なるほど、素晴らしい洞察力だ。百年に一度、出会えるかどうかの魔術師と見える」

「恐縮だけど、千年に一度と言って欲しいね。この世界に何の用?」

「聞いてどうする?」

「それを考える為に聞いてるんだけどね」

僕と、御影と名乗る男の間に、緊張が走る。この吸血鬼、強いね。

「父様、あの子、私がやっちゃってもいい?」

その時、男の後ろから小柄な女が現れる。娘だろうか?

「紗羅か。まだ、動く時ではないが……いいだろう。力も試しておきたい」

「ありがとう、父様。さて、私、貧血気味なの。あなたの血を少し頂けるかしら!」

紗羅と呼ばれた女がこちらへと迫ってくる。彼女の力量は……まずは、小手調べって所か。

「おいでなさい、魍魎悪鬼」

紗羅は自らの血を霧のように撒くと、それを依り代に鬼を召喚した。

血を源とする召喚術のようだ。とりあえず、素直に鬼が出たようだ。

「わわわ、怖いって怖いって!」

横を見ると、かぐやがあたふたした様子を見せていた。吸血鬼の下僕に鬼とは、確かに、ちょっとしたお化け屋敷みたいなものだ。僕はお化けが好きだけど、かぐやにはまだ少し早かったかな。

「しょうがない。久し振りに、僕が戦いを教授してあげる。戦いの秘訣その1、恐怖を味方に付ける。心が竦むと何も出来なくなるからね。後は頭を使うこと。血は霧となり、鬼を生む。なら、どうする?」

「逃げる」

「逃げちゃダメだ」

「ふぇー、じゃあ、鬼を倒す?」

「さすがに金棒を持った鬼には手を焼くだろ?」

「じゃあ、霧をどうにかする?」

「正解」

霧は雲に等しい。雲が風に乗って運ばれるように、霧も風によって飛ばされる。

僕は右手で二つの風を作り出すと、それを螺旋のように捻り、紗羅と鬼の間へ放つ。血の霧が飛ばされ、魔力の供給源が断たれた鬼は霧散した。

「吸血鬼が何年生きられるか知らないけど、まだ若いね」

「このっ、その台詞は私を倒してから言いなさい!」

「引きなさい、紗羅!」

男の方を見ると、もう一人、女が現れていた。あれも奴の娘か?

「でもっ!」

「あなたでは倒せないわ。引きなさい」

「……はい。ごめんなさい、姉様」

紗羅が男の元へと帰っていく。やはり、あの子は一番、下っ端のようだ。

僕はゼロを思い出していた。まあ、ゼロはもうちょっと強いけど。

「かぐや」

「ふぇ?」

「向こうの世界で寝てた訳じゃ無いだろう? ちょっと、あの男に突っ掛かってみてよ。やられてばっかりじゃ癪だからね。こっちからも仕掛けてみよう」

「分かった。やってみる」

相手の力量はもちろん、僕はかぐやの成長ぶりも見ておきたかった。近い未来、かぐやの力が必要になって来る、そう僕は直感していた。

「幻想の月、力を貸して」

かぐやが魔力を集中させると、月が夜空に生み出されていた。僕は素直に感心する。深層にある昔の輝夜の記憶が、この月を生み出しているのだろう。

高く夜空に浮かぶそれは辺りを照らし、闇に隠れる吸血鬼を鮮明に浮かび上がらせた。

「見えた! 行くよ! 新技、スーパームーンビーム!」

月の光が閃光となって降り注ぐ。技名は兎も角、効果は意外と侮れない。さて、どう出る?

「紗羅、凛花、私の影に隠れていろ」

御影が取った方法は単純明快。避けない、だった。月の光は御影を貫くが、負ったダメージは即座に回復されていく。なるほど、ある一定以下のダメージはダメージにすら含まれないらしい。

「えー、何で!?」

かぐやは不満そうだった。幻想の月は寂しそうに遥か彼方、ゼロ達のいる氷山の方角を見ているようだった。

「さて、お互いに力量は測れたかな」

「そうだね。敵か味方かは分からなかったけど」

「それはいずれ分かる。そろそろ奴等が来るな。また会おう」

御影とその娘達は闇へと消えていった。

「あれは何だったの?」

「さあね。でも今の所、敵ではなさそうだ」

「へ、何で分かるの?」

「自分達の手の内を見せてでも、僕等の力を試していただろう? 敵だったら、まず力を発揮させる前に倒すことを考える。さっきは誰かを待ちながら、僕等が戦力として使えるかどうか判断しようとしてたってことさ」

「なるほど」とかぐやが呟く。かぐやにも心当たりはあるようだった。あちらの世界で出会ったという、ラピスという魔術師と無関係ではないかもしれない。

「かぐや、そろそろ本命が来るよ」

「えっ、さっきのあいつが本命じゃないの?」

「あれは、イレギュラーだけど、前座ってとこだね」

「ふぇー」

僕は強大なもの、世界そのものが現れると感じていた。今はハッキリと分かる。それこそが黒の感覚だった。次元の狭間が、いや違う、時空の狭間が空の月を割って現れていた。

「私の月が!」

「かぐや、見届けたら一旦引くよ」

「うん、分かった。って、えっ!」

かぐやは意外そうだった。僕が引くなんてのは見たことがないからだろう。その時、僕も伝承でしか聞いたことがない、千年よりも遥か昔の国の話を思い出していた。栄華を極め、突然消えた魔道国家、アルティアの話を。

次章に続く

物語"氷棺の聖女"

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