赤い月の童話 エピローグ

グリムは知っている、童話の物語が人々に勇気を与えられるということを。

『あなたなら、この力を使える。そしてドラキュラに対抗することもできるはずよ』

赤ずきんと名乗る少女がそう言って訪れてから3か月、旅も終わりに近づいていた。
彼女の持っていた古の魔導書はグリムのルーラーとしての能力を覚醒させ、ドラキュラに対抗しうる力を目覚めさせた。
ジャンヌ・ダルク、白雪姫、シンデレラ、ドラキュラがこれらの物語を悪夢で歪めて使役するならば、グリムは正しき物語の力によって、その者達を物語へと回帰させていった。

そして、旅の中、グリムは仲間と出会う。
人間に大きな憎しみと力を発揮するジャンヌ・ダルクとの戦いにおいて、窮地を救ってくれた、エルフのクリスティ。
ドラキュラによって闇の森に幽閉されていた匣の少女 パンドラ。
そのパンドラの持つ希望を解き放つことが、ドラキュラを完全に倒しうる手段だと、赤ずきんは話した。


『彼女はね。ドラキュラという存在にトドメを刺せる唯一の希望なの。ふふふ、もちろん嘘じゃないよ』

嘘じゃないよ、それは、赤ずきんの口癖だった。
月と共に狼少女に変身する彼女の力はとても頼りになるものだったが、同時にグリムは少し違和感を感じていた。
しかし、それは、目前に迫るドラキュラという脅威の前では、些細なことのように思えた。

旅は続き、ついにグリムは魔城アルヴァレスに辿り着き、ドラキュラを追い詰める。
不滅の力を持つドラキュラとの戦いはいつ終わるしれないものだったが、クリスティの聖なる力と物語の登場人物たちの助力によって、次第にその強さに陰りが見え始める。
そして、最後のときが訪れた。クリスティの輝きの力によってドラキュラが怯むと、そのスキに赤い月の力を取り込んだ赤ずきんが狼少女となり素早くドラキュラに一撃を加えた。

『グリム、さあ、パンドラと共にドラキュラにトドメを刺して!』

赤ずきんの声が響く。それと同時にグリムは動いた、そして、自身の力とパンドラの力をドラキュラへと解き放った。
その瞬間、ドラキュラの体は光に包まれ、内側からその存在を崩壊させていった。

『この世界にお前たちは必要ない!』

グリムがドラキュラへ向けて、声を放つと。

『ば、ばかな……私が人間に負けるはずが……』

ドラキュラはありきたりな、とてもありきたりなセリフを残して、その存在を消滅させた。
そう、まるで、誰かに呼び出された物語のキャラクターかのように。

『終わった……のか?』

消滅するドラキュラの存在を見ながら、城に戻ったら本を読んで、ゆっくりと暮らそう。
グリムはそう考えていた。しかし、グリムは唐突に思いだす。
童話の物語がときに残酷なまでの結末を持つということを。
そして気づく、ドラキュラを倒したにも拘わらず、あたりの瘴気がまったく薄れないことを。

『さて、そろそろね』

形容するならば、透き通るような赤い声があたりに木霊した。
それと同時に、グリムの体も透き通るように、存在自体が消滅するかのように消えかかっていた。

『グリム、あなたのおかげで希望と絶望の枷が解き放たれたわ。ありがとう、そして……さようなら、力を使いすぎたわね、物語の世界でおやすみなさい。ふふふ、もちろん嘘じゃないよ』

『では、始めましょうか。天空へ、そして、月への進撃を』

グリムは薄れゆく意識の中で、崩壊する城から、天空へと黒き塔が伸びていくのを見たのだった。

2014年10月2日 木曜日

物語”赤い月の童話”