“新世界童話 リ・アース” 第1章-少女の心と機械の王-

長い長い夢を見ていた。
マスターと共に戦う夢、獣の少女との冒険の夢、そして、友の帰りを待つ夢を。

夢の中で少女は思う。
心は何の為にあるのだろう。
ずっとずっと孤独と共に生きてきた、あの人に会うまでは。
だから、あの人が必要としてくれるならば……私は。

『ここは……』
長かった夢は唐突に終わりを告げる。曖昧だった記憶は急速に戻り、世界はその色を取り戻していった。
『この感じ……マリー! マリーだよね!』
夢で聞いたことのある、懐かしい声が聞こえた。

ヴァランティーヌの魔石に眠っていたもの、それは、マリーベルに込められていた心だった。アトラクシア崩壊の際、ヴァランティーヌはプリシアの体を奪い、そのまま、シオンの元へ行くと、シオンの体を自身の“スペア”として吸収し、そして、側に居たマリーベルの存在も取り込んでいた。ライトパレス襲撃の際にファリアが取り返したのはプリシアの体だけではない、マリアベルの心もまた取り返していたのだった。

プリシアがそれに気づくことが出来たのは、ラピスとの戦いを経て、プリシアの力が覚醒したからだろう。

『プリシアさん! でも、どうして、私は』

『うんとね、細かいことは私も聞きたいって感じなんだけど。懐かしくて優しくて、そして、強い心を見つけて、私はね、それがマリーだと思ったの!』

『では、プリシアさんが、私をここへ?』

『うん、といっても、手助けをしただけ。マリーの心が、強く強く呼んでいたから』

『……私も何か懐かしい感覚に惹かれたのかもしれません』

『えっと、時間がないから、今の状況を説明するよ、私達の世界を滅ぼしたラピスって奴が、この次元も滅ぼそうとしている。それで、あれを見て』

プリシアの指し示す先には、巨大な樹が見えた。黒く染まった、アトラクシアに居たものなら、誰しもが見覚えのある樹が。

『あれは、ユグドラシル?』

『そう、でも、もう、あのユグドラシルじゃない、今はもう、ラピスによって召喚された災いの樹。私たちはあれの侵攻を食い止めなくてはいけないの』

『分かりました、プリシアさん。……私にも手伝わせてください』

『ありがとう、マリー。でも、出会った時にも言ったけど“さん”はいらないよ! だって、友達でしょ! 私も、そうだ! とってもかわいくなったから、プリティーマリーって呼んでいい?』

プリシアがニコっと笑う。

『……はい、プリシア! でも、私のことはマリーでお願いします……』

マリアベルも満面の笑みを浮かべた。はじめての親友に対して。


『それって、使えるの?』
ここへと召喚されたときから、マリアベルの手には不思議な銃が握られていた。

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『はい、これは、マキナ様が作っていた魔心銃と呼ばれるものです。私の中の記憶がプリシアの力を借りて、具現化させたのだと思います。これは、魔法の力や形に出来ないものを、弾に込めて打ちだせるものなのです。本来、実用段階には至ってはいませんでしたが……今は使える、そう思います』

この世界はラピスが召喚したユグドラシルによって覆われつつあった。黒き瘴気は光を遮り、薄暗い空が世界の終わりを告げるように蠢いていた。そのラピスはアルハマートを倒した後、アリスをエクスカリバー・オルタナティヴによってユグドラシルへと封印すると、どこかへと消えていった。最後の鍵を探しに行くといって。

そして、ミリアム達は対抗策を練るために、一旦、ライトパレスへと向かっていた。その際、プリシアとファリアの2人はユグドラシルを監視し、いざとなれば、それの侵攻を食い止めるために残ったのだった。今、ファリアは辺りの様子を調査するために、プリシアとは別行動を取っている。

プリシアがユグドラシルを見上げる。その時、それは一層、蠢めいたように見えた。いや、見えただけではない、黒い影がユグドラシルから現れ始めていた。ユグドラシルによる世界への侵食の始まりだった。

『この感じは、まさか……』

マリアベルはユグドラシルから現れた黒い影の襲来に懐かしい感覚を覚えた。それらはアトラクシアの記憶から蘇り、ラピスの意志によって黒く染まった破壊的な化け物達だった。そして、その影の中に彼は居た。

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『マキナ様!』

マリアベルが見間違う訳もない。それは、かつて、機王と呼ばれたものの成れの果てだった。ユグドラシルによって魂を捕らわれ、目の焦点はどこにも合っていない。彼は何かを求めるように彷徨っていた。
プリシアはマキナの姿を見て、心配そうにマリアベルへと話しかける。

『マリー。あれは、私がやるから……マリー?』

プリシアが見ると、マリアベルの目には涙が浮かんでいた。しかし、その目の輝きは、まるで最愛の人を見つけたようだった。

『いえ、大丈夫です。プリシア、私は嬉しいのです。マキナ様に頂いた、この心をお返し出来る。そんな嬉しいことはありません。だから、プリシア、見届けてくれますか? そして……シオンを救えるのならば、お願いします』

マリアベルは胸に手を当てると、魔心銃に弾を込める。自らの心の半分を弾丸にして。

『マキナ様!』

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声に反応するように、マキナがこちらへと振り返る。同時にマリアベルの放った弾丸が、マキナへと直撃した。そして、その衝撃はマキナの奥底に光るものを植え付けていた。それは、記憶と心。マリアベルから弾丸を受け取ったマキナの目は次第に輝きを取り戻していく。意志を戻したマキナは自らの体に宿ったものを確認すると、焦点の合った目でしっかりとマリアベルを見ていた。

『そうか、マリアベル、お前の仕業か』

『はいっ、マキナ様!』

『まさか、お前に助けられるとはな』

『そうですよ。私だって、助手をただ1年やってきた訳じゃありませんから』

『しっ……いや、そうだったな、マリアベル、私からの最後の命令だ』

『はい』

『ユグドラシルに取り込まれた、あいつらを止めるぞ』

『はい、マスター。いえ、マキナ様! 殲滅方法の指示をお願いします!』

ユグドラシルからは、マキナと同様にかつての七王達も召喚されていた。メルギス、アーラ、レザード。かつて、アトラクシアを七つの世界に分けて統治し、ある時は覇を競い合い、ある時は共に戦ったもの。その物語を終幕させるのに、同じ七王が選ばれるのも因果なのかもしれない。マキナはそう思う。自身の運命も、また、消えゆくものと知りながら。

『マリアベル、私は仮初めの体と力を得たに過ぎない。そう、長くは生きられまい』

『分かっております。マキナ様には私の心をお渡ししました。私の運命もマキナ様と共にあります』

『そうか、すまないな、マリアベル。……幸せは見つけられたか?』

『はいっ!』

今が一番幸せですから。その言葉は戦いの始まりを告げる喧騒と共にかき消されていった。

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ファリアが戻ると、プリシアは涙を流していた。

『プリシア。どうした、何があった?』

『ううん、大丈夫。終わったんだ、私たちの世界の一つの戦いが』

『そうか、私も……終わらせて来た』

『ファリア……』

ファリアもユグドラシルから召喚された何かと決着を付けて来たのだろう。目には涙の跡が見てとれた。

戦いの喧騒は嘘のように静かになっていた。そこには、小さな銃とマキナがマリアベルへと送った機械の人形だけが残されていた。


“新世界童話 リ・アース” 第2章へ続く

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