“新世界童話 リ・アース” 第2章-浮遊炎城 レファース-

ミリアム達がライトパレスへの帰還する最中、ルーニャは1つの魔石を食い入るように眺めていた。

『不思議な感じ……』

ルーニャが見ている魔石の名は浮遊石。それは、特別な力を持つ唯一無二の真魔石であり、六賢者アルメリアスの力を封印したものだった。アルメリアスはアルハマートとの戦いで大きな魔術を行使し、代償として、その身を魔石へと帰していた。ライトパレスに居るものならば、良く知る伝承の魔石、浮遊石に。

古代の皇帝アルハマートの打倒はミリアム達にとっても大きな進展となったが、それにより、ラピスとの共闘関係も崩れた。むしろ、より因縁深い、本来の敵が再び立ちはだかったと言えるだろう。ラピスの狙いは謎も多いが、この世界の滅びを避けるためにはラピスを倒さなくてはならないのだけは間違い無かった。

『ラピスを倒し、この世界を救うためには、アリスを解放する必要があります』

千年姫の姿へと戻っていた、かぐやがそう切り出す。今、アリスはラピスによって、ユグドラシルへと封印されている。アトラクシアでの戦いを経て、アリスを警戒したからこそ、ラピスもアリスの意志と力が完全に戻る前にユグドラシルへと存在を封じたのだろう。しかし、アリスが居るユグドラシルの遥か上空は魔物達が舞い、容易には近づけない様子だった。

『……助ける方法はあるのか?』

ゼロが疑問を投げかける。目的は分かっていても、手段は限られている。それは、誰もが分かっていた。

『ふふふ……私にいいアイデアがあるわ』

それに答えたのは、いつの間にか変身していた、ニャルラトホテプだった。

『赤女! 何故、そんな簡単に変身が』

ルミアが条件反射のように警戒体制に入る。

『ふふふ……細かいことはいいじゃない。本題に入りましょう、アリスの所へは私が近づけるようにしてあげる。あなた達はアリスに施された、封印解除の方法を考えなさい』

『でも、どうすれば?』

『長時間、空を飛びながら戦えなくては、あの場所での戦闘は不可能ではないでしょうか? 私達の中でそれが出来るのは……』

今度はミリアムとシャルロッテが聞く。そんなことが生身で出来るのはフィースくらいだろう。ニャルラトホテプや今のかぐや、変身したミリアムは常識の範疇では語れないが不安定な要素も多い……ゼロはそう思った。

『方法はある。ふふふ……嘘じゃないよ。ルミア、この場所を覚えてて?』

『ええ、あなたこそ“覚えて“いるのね』

2人とっては覚えのある場所だった。それは、かつての戦いの記憶。ニャルラトホテプにとっては前世の記憶といってもいいかもしれない。この場所は天空の城レファースが地上へと落ちた場所だった。その原因となったのは、当時、アカヅキンと名乗っていたニャルラトホテプであり、それに相対したのは、ルミアと“本物”の赤ずきんだった。

『私は忘れようとしても、忘れられないわ。それで?』

『ここまで言えば、分かるでしょ?』

『ええ、でも、あなたは嘘吐きだから。話しなさい、それで、判断してあげる』

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『ふふふ……相変わらず強情ね。いいわ、この浮遊石を使って、再びこの城を空へと浮かべる。真魔石とルミアの再生の力、そして、今の私の力があれば可能よ。それから、空飛ぶ城に乗って、あの樹へと近づけばいい』

ニャルラトホテプは手に持った浮遊石をお手玉のように、くるりと宙に舞わせた。

『確かに、それなら可能かもしれない』

『それには、ルミア、もう少し人手が必要ね。ふふふ……人じゃない手は私で十分だけど。城に縁のあるもの達を呼べるかしら?』

『……分かったわ』

ルミアは上空に魔法陣を作り出す。

『久しぶりだから、成功するか怪しいけど……』

ルミアが詠唱を終えると、魔法陣から小さな魔法使いが姿を現した。

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『お久しぶりね。メフィストフェレス』

『ルミアか、やれやれ、30年程度でまた、呼び出してくれるなよ』

『頼みがあるの。エルフの里へいって、メルフィを呼んできて、至急。お願いね』

『ああ、あの時の小娘か。まったく、悪魔使いが荒いったらありゃしない。1つ貸しておく。悪魔の借りは大きいぞ、代償は……』

『早くいきなさい』

『ちぇっ』

メフィストフェレスを送り出したルミアはミリアム達へと話す。

『話は聞いていたわね。私達はここでレファースを空へと浮上させます。その間にミリアムはライトパレスへ戻りなさい。……私ね、実はミリアムの力の源が分かって来てはいるの、お兄様には童話の力はあれど、古の力は無いわ、もちろん、同じ血を引く私にもね。だから、あなたの力はあなたの母親、パンドラの血がそうさせているんだと思う。ラピスと同種の力、アリスの解放にはその力が必要になる。だから、ミリアム、お願いね』

『母さんが……分かりました。ライトパレスへと戻ります。みんな、行きましょう』

 ミリアム達がライトパレスへと向かい、レファースの浮上の為にルミアとニャルラトホテプは準備を開始する。しかし、もう1つ気配が隠れていた。知らぬフリをしていたニャルラトホテプが、嬉々として声をかける。

『居るのでしょう? 出て来てもいいわよ』

『私だって、あなたを信用していないからね』

それは、赤ずきんだった。かつて、童話の世界から飛び出してクトゥルフと戦い、童話の世界をニャルラトホテプによって追い出された後は天空の城へと住み、そして、千年の後、再びクトゥルフと戦った赤ずきん。物語の住人でありながらも、意志を宿したこの世界の登場人物。

『ふふふ……信用なんて嘘つきが使う言葉よ。見てなさい、すぐに終わるから』

ルミアの再生の力、ニャルラトホテプの魔力が浮遊石へと注ぎ込まれていく、それに呼応するように、崩れたはずの城が再び構築されていった。さらに、ニャルラトホテプの魔力によって紅い魔力の装飾を伴って空へと浮かび上がっていく、この魔力の装飾は並大抵の魔物ならば、近付く前に焼き切れてしまうほどの力を持っていた。

『時間が無いわ、行きましょう』

『待って〜!』

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遠くから、メフィストフェレスに連れられて緑の少女が見えた。彼女もまた、フィースシングの意志を継ぐものの1人。

『メルフィ!』

『間に合ったわね』

『やれやれ、じゃあ、僕はまた、お暇を頂くよ。こう見えて、この姿は燃費が悪いんでね』

『また、戦いの時によろしく頼むわ』

『ちぇ、勘弁してくれよ』

メフィストフェレスはポンっと音を立てて消えていった。

4人を乗せたレファースは上昇しながら、ユグドラシルへと向かっていた。しかし、あともう少しというところで、その動きがピタリと止まる。浮遊石によって動かされているこの城が自然に止まることは有り得ない。つまり、何者かが干渉しているのは明らかだった。

『何が起こっているの?』

ルミアは起こっている事象を正確には認識出来ないでいた。しかし、ニャルラトホテプだけは分かっていた、何故なら、この城に働いている力は……。

『ふふふ、少し、昔の知り合いが訪ねて来たみたいね』

『昔の知り合い?』

『説明している暇は無いわ。ルミア、あなたは一旦、降りなさい』

『何を言っているの?』

『どちらにせよ、ミリアム達をここに呼ぶには希望の塔の移送装置の再起動が必要ということよ。それにあなたは……まあ、いいわ』

ニャルラトホテプが手を翳すと赤い月を模したゲートが生まれる。それは、大きく広がるとルミアを包むように展開されていく。

『さようなら、安心なさい、役割は果たすから。そうそう、一つだけ言っておくわ、……には気をつけなさい、“あれ”は“嘘”をついている』

『赤女! それは一体どういうこと? 待ち……』

言い終える前に、ルミアは地上へと転送されていった。

『久しいわ。良くここに潜り込めたわね』

姿を現したのはクトゥルフにして、人へと転生していた、ウムルだった。

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『そうかい? ここでは盗賊をやらせて貰っているからね、造作も無いことさ』

『まあいいわ、その手に持っているものは返して貰うけれど』

ウムルの手には浮遊石が握られていた。

『そうはいかない、混沌こそ我々の愛すべきものだろう? 違うかい?』

『ふふふ、違わないわ。でも、与えられた混沌など食えたものじゃない。そうでしょう?』

『気が合わないね』

『私も同意見。ふふふ、気が合うわね』

音も立てず、ニャルラトホテプの回りに貪欲な魔物が現れる。

『援護しなさい“本物“』

『“偽物”に言われなくても!』

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『私も忘れないで!』

『あなたはこの城が崩れないように結界を展開しなさい』

ニャルラトホテプは己の結界から生み出した魔物と共にウムルへと接近する。赤ずきんはその手に持った弓でウムルに狙いを定め、メルフィは防御の結界を展開していた。

『どうして……』

赤ずきんは困惑していた。ウムルへと迫る、ニャルラトホテプの動きは疾い、いや、余りにも疾すぎる。それは、千年も前に見た完全な“化物”との戦いを思い起こさせた。

『ふふふ、人の身ではこれが限界かしら』

ニャルラトホテプの“人間”の体の至る所から血が流れ始める。自身の力に耐えられなくなっているのだろう。ニャルラトホテプはクトゥルフ本来の力が戻りつつあることに気づいていた、それは、かぐやの転生の封印が弱まっていることを意味する。かぐやが元の姿に戻った影響か、また、別の理由かは分からない。ただ、自我が保たれているのは、ニャルラホテプが自分自身に嘘をつく能力を有しているからに他ならなかった。そうでなくてはウムルのように“混沌”を求める意志に完全に支配されていただろう。しかし、その嘘の力を持ってしても、元の“化物”へと戻ってしまうのは時間の問題だった。ゆえに、ニャルラトホテプは選択する。化物へと戻るか、それとも……。

『ウムル、私達は過去の妄執。もうここには相応しくないわ。ルミア、あなたの小言は聞いてやれないかもしれないわね。ふふふ……残念だけど、嘘じゃないよ』

ニャルラトホテプは自身の手に流れ落ちる血をペロりと舐めると、目を見開いた。

『嘘は慈悲深く、真実は残酷。見せてあげる、私の真実を!』

“新世界童話 リ・アース” 第3章へ続く

物語“新世界童話 リ・アース”

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