“新世界童話 リ・アース” 第4章-観測者 シェヘラザード-

アリスとダークアリスは空を駆けていた。ラピスの純粋で黒い感覚、これまでの因果が縁となって彼女達をラピスの元へと惹きつける。それは、宿命とも呼べる縁。

『みゃおー』

『シュレディンガー?』

しかし、その道中、シュレディンガーが何か気配を感じたようだった。別世界から訪れる違和感に対して、シュレディンガーは強く反応する。そして、シュレディンガーの見る先で空間の歪曲が発生した。2人は移動魔法の類だと一瞬で察する、しかし、そこからは現れたのは意外な人物、緑の魔導師と猿のような風貌の戦士だった。

『あなたは……シェヘラザード!』

『お久ぶりね。アリス、それにダークアリスも』

『誰? 邪魔をするなら殺すわよ』

『あら、そちらからは初対面だったかしら』

ダークアリスの力が瞬時に増大し、その体から染み出すように闇が拡張する。シュレディンガーはいつの間にか、何倍にも大きくなっていた。

『ダークアリス、やめて』

『いやだね。立ち塞がるなら殺すしかない。行くよ、シュレディンガー! 殺戮モード!』

『みゃおーーー!』

『おいおい、面倒くせぇことになったぞ、どうするんだ?』

『孫悟空、私に任せて。……さて、この話はあまり趣味じゃないのだけれど。仕方ないわ』

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シュレディンガーを従えてダークアリスが一気にシェヘラザードへと迫っていく。それに対して、シェヘラザードが行ったのは、持っている本のページを開く、それだけだった。

『第五百二夜“3つの願い”』

シェヘラザードの持っている魔導書“千夜一夜物語”は未来と過去を記す力の他にも、描かれた物語の世界と法則を、結界へと展開出来る力を持っていた。世界の法則を変える、とは、例えば、言葉が世界の法則となれば、力は意味を持たなくなるといったように、シェヘラザードはある程度、その法則をコントロール出来るのだ。ただし、物語に沿った行動を取らなくてはいけないといった制約があった。

『あなたの願い、それは、その猫をどんどん大きすることよね、私達を倒すために』

『そうよ! 倒すのではなく、殺すだけど!』

『ならば、願いを叶えましょう』

魔導書から光が放たれる。それは、シュレディンガーを包み、その体を無制限に大きくしていった。そして、自らの重さに耐えられなくなった、シュレディンガーはその場に座り込み動けなくなってしまう。これ以上大きくなってしまうと、自重によって潰されてしまうかもしれなかった。

『み、みゃお〜〜』

『シュレディンガー! あなた、何をしたの? ちっ、早く小さくしなさい!』

『二つ目の願いを叶えましょう』

再び、魔導書から光が放たれる。今度は逆にシュレディンガーはどんどん小さくなり、米粒ほどになってしまった。

『みぃ〜』

もう、シュレディンガーの鳴き声もかすれて聞こえない。このままでは、見えなくなってしまうのも時間の問題だった。

『次が最後の願いよ、どうするの?』

『元に戻しなさい!』

魔導書が三度輝く、シュレディンガーは元のサイズへと大きさを変えていった。同時に言葉に捕われたシュレディンガーはその大きさを変える能力を封じられていた。

『みゃ、みゃお〜』

『話は聞いて貰えるかしら?』

『ダークアリス、一旦引いて』

『ちっ』

アリスの言葉に、ダークアリスは不満そうに距離を置く。ダークアリスもシュレディンガーを危険にさらすのだけは嫌なようだった。

『どういうことなの? あなた、この世界を救うためにここに来たのではないの?』

『そうね、ある意味、救うためなのだけれど』

『いえ、聞き方が悪かったわね、率直に問う。あなたはどちらの味方?』

『それならば』

2人の間に緊張感が走る。

『ギル・ラピス』

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『ふざけないで、シェヘラザード。ラピスがどういう存在が分かっているの?』

『ええ、有害に見えるわ、でも、最悪ではない』

『何を言っているのか、分からないわ』

『これは、あなた達に説明しても分からないこと。これから起こる“かもしれない最悪を防ぐためのね。だから、警告しておくわ、すぐにでも、あの蒼き星へと脱出しなさい。後は私達に任せればいい』

今度はシェヘラザードが問う。

『いいわ、こちらも率直に問う。ギル・ラピスから手を引きなさい』

『答えはもちろん』

『ノーよ!』

アリスとダークアリスが声を合わせる。

『ほれ見ろ、話を聞くような奴らじゃねぇって』

孫悟空は不満を言い続けていた。対して、シェヘラザードは冷静さを崩してはいない。想定の範囲内といった様子だった。

『仕方無いわね、通りなさい、それで、存分に戦えばいい、私達はあなた達に直接手を下すつもりはないから。孫悟空、引くわよ』

『待って、聞きたいことは他にもあるのよ!』

『ごめんなさいね、物語のページは残り少ないの。もし、お互い無事だったら、あの星で会いましょう』

シェヘラザードと孫悟空は風と共に消えていった。

『ちっ、いらぬ時間を喰ったわね。ラピスの元へ急ぐよ』

『待って、ラピスの感覚が移動している、この方向はユグドラシル!』
……

シェヘラザードが転移した先で、空から声がした。

『シェヘラザード』

『アーデルベルト』

『今は思念体を飛ばして観測しているが、実際にそちらに行くにはもう少し時間が掛かる』

『分かったわ、間に合わない場合は巻き込まれないように引いて、多分、これから起こるかもしれない“あれ”の性質は私の力に近いけど、より上位のもの。始まってしまったらあなたでも手は出せない。もしもの場合、後の事は“新入り”に託してあるから』

『そうだな。出来る限り急ぐとしよう』

……

そして、ラピスは。

『エクスカリバー・オルタナティヴの呪縛から解き放たれるとはね』

アリスの解放を察知していた。そして、その力の正体も。

『ならば』

ラピスはアトラクシアのレガリアを手に召喚の儀式を始める。それは鈍く輝くと、力を消費するようにくすんでいった。ラピスは次元をレガリアとし吸収し、それを消費して、強大な力に変えて、行使出来る。

『これが、本当の終幕だ。また、力を貸してくれるかい?』

傷ついた魂は時間を駆けて修復され、再び蘇る。その魂の名はシルヴィア・ギル・パラリリアスと言った。

『シルヴィア、おかえり。また、僕の為に戦ってくれるかい?』

『仰せのままに。私の剣はラピス様だけのためにあります』

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絶望の意志が世界を覆い尽くすまで、後少し。

“新世界童話 リ・アース ”第5章へ続く

物語“新世界童話 リ・アース”