“新世界童話 リ・アース” 第5章-光と闇の童話 [前編]-

ラピスと最初に接触したのは、ユグドラシルからの魔力の奔流を感じ取り、その先へと移動していたファリアとプリシアだった。

『また、君達か』

ユグドラシルへ向かっていたラピスが簡単に接触を許したのも、2人を警戒すべき相手として認識してなかった為だろう。ファリアとプリシアはアトラクシアの生まれだ。ゆえに、アトラクシアの最上位の力、エクスカリバーとユグドラシルを所持しているラピスとは力の性質上、相性が悪い。最初の接触でラピス、そしてファリアもそれを感じ取っていた。

『無駄だ、僕を倒すことは出来ない』

『ふふ、今の“状態”では、そうだろうな。さて』

黒い剣閃が戦場を切り裂き、ラピスのエクスカリバーが2人にダメージを与えていく。ファリアとプリシアは攻守にお互いを補完しており致命傷には至らないが、打開策も見えなかった。

『ファリア、どうする?』
プリシアが聞く。

『一旦、引きたいところだが、ラピスは目的があってユグドラシルへ向かっている。ならば、ここで足止めするべきだろう』

『分かった! 私もそう思う!』

『いい判断だね』
ラピスは素直に賞賛する。

『どうかな、素直に足止めさせてはくれまい』

『物分りが良くて助かる』

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言葉と共に空間が歪む。ファリアが感じたのは亡霊の感覚だった。そして、現れたのはヴァランティーヌ。ファリアはこの感覚が今のヴァランティーヌから滲み出して来たのだと知る。狂ったアリスによって、精神を崩壊させられたのだろう、その姿は狂気に取り憑かれ、妄執の亡霊と呼ぶに相応しい存在となっていた。

『ヴァランティーヌ!』

『アリ……アリ…ス、お前は…ア…ス…じゃない…』

『無駄な自我が無い分、今の“彼女”は強い。ブレイザーのようにはいかないはずだ』

『ファリア。これは私達がやらないと』

『同郷からの腐れ縁だ。私達が断ち切ってやらねばな、妄執から』

『うん、かわいそうだけど、許したりはしないよ。シオンの体も返して貰う! ……きっと、みんななら、ラピスをやっつけてくれるはずだし』

『ふふ、そうだな。信じよう、ここまで来たのなら』

ヴァランティーヌの回りに亡霊が召喚される。それは、生者に嫉妬するかのように、ヴァランティーヌのこれまでの生き方を表すかのように蠢いていた。そして、ラピスの姿はユグドラシルへと消えていった。

『この世界の災厄よ』

ラピスはユグドラシルへと辿り着くと召喚の儀式を始める。
ユグドラシルはこの世界の力を吸い続けており、既にいろいろな形となって現れていた。しかし、最上級の厄災はラピス自身によって解き放たれる必要があった。その為にラピスはユグドラシルへと戻って来たのだった。

『さあ、喰らうがいい』

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ユグドラシルから新しく召喚される化物達。その中には八岐大蛇やバハムート。かつて、この世界を恐怖に陥れた存在も蘇っていた。

しかし、絶望の意志がこの世界を滅ぼそうとしているとき、希望の意志もまた、この世界を救うために集結していた。レファースから降り、地上へと帰還していたミリアム達、それに、

『ラピス!』
『今度こそ、絶っ体にぶっ殺す!』

ラピスを追って引き返して来た、アリスとダークアリスが加わる。

『ミリアム、準備はいいか?』

『はい、父さん!』

ライトパレスからはゼロやグラスバレスタ、そして、グリムもまた戦いの場へと赴いていた。しかし、そこにかぐやの姿は無い。

……

それは、ゼロやグラスバレスタが御影清十郎を倒し、ライトパレスを出発する時まで遡る。

『ゼロ、グラスバレスタ。お願いがあります。私を少しの間、1人にしてくれませんか? 私にしか出来ない、私がすべきことがあるのです。必ずラピスを倒すために戻ります。いえ、私が戻るまでラピスを倒すことは無理かもしれない、だから、何とか持ちこたえてください』

『ならば、私達も一緒に……』
ゼロが言いかけたとき、

『お嬢、分かりました。ゼロ、行くぞ』

『おい、グラス』

グラスバレスタがゼロを制した。そして、城の外へ出ると、ゼロへと語り始める。

『お嬢はフィースシングのことを引きずっているのだろう。戦いの前に1人で気持ちの整理を付けさせてやりたい。あの時、お嬢を1人にした、私の責任でもあるからな。ここはすまないが頼む』

『……分かったよ』

グラスバレスタはリリアス・ペタルに御影の後始末を頼むと、ゼロと共にユグドラシルへと旅立った。その時、グリムもまた、己の力が必要かもしれないと最後の戦いの場へ向かったのだった。

……

絶望の意志と希望の意志の激突。その戦いは苛烈を極めた。一見互角に見える戦いも、どちらが優勢かは次第に明らかになっていく。ユグドラシルから現れる軍勢、そして、ラピスに衰えは見えないのに対して、アリスやダークアリス、ミリアム達は蓄積された疲労によって、僅かではあるが動きを鈍くしていた。

『ラピスはユグドラシルとエクスカリバーの2つから、無限に近い力が供給されている。それを両方断たなければ、致命的なダメージを与える機会すらないわね』

アリスがバハムートの劫火を防ぎながら話す。昔からこいつもしつこいわねっ、と追加で呟きながら。

『方法は?』
『みゃおー?』

ダークアリスが間髪入れずに聞き、シュレディンガーもそれに続く。

『それは……考え中』

『ちっ、あなた、それでも私なの?』

『うるさいわね、あなたこそ何かないの?』

『あるなら、とっくにやってるっていうの』

アリスとダークアリスの元にミリアム達からの使者が来たのはその時だった。アリスとダークアリスは上空でラピスと戦い、ミリアム達は地上でユグドラシルからの軍勢を押さえ込んでいた。

『久しぶりだね。アリス』

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『チェシャ猫!』

『アリスが寝てる間にいろいろと働いてたんだよ、まったく』

『それは助かったけど、それを言う為だけに、あなたが現れた訳じゃ無いでしょ?』

『ああ、ミリアム達からの伝言だ。ラピスが2つの力の供給によって無敵に近い状態なのは分かってるだろう? その内の1つユグドラシルはパンドラの力によって一時的に止められるらしい。アリス達を解放したときに可能だと感じたんだとさ。この世界からの力の吸収を止めるために根本の方に行くから、空飛ぶ城も必要ない。ただ、封印は長くは持たない。ここまではいい?』

『ええ、大丈夫よ。それで』

『だから、そっちでエクスカリバーの力を封じて欲しいってこと』

『簡単に言ってくれるわね』

『それしか方法は無いんだから、簡単も難しいも無いさ』

『分かったわよ。ダークアリス、聞いたでしょ。チャンスは1回切り、全力で行くわよ』

『あなたこそ、しくじらないでよ』
『みゃおー』

『もう、シュレディンガーまで。大丈夫、切り札は……こっちにもあるんだから』

アリスは空に浮かぶ、蒼き星を見上げてそう言った。

リンリンと鈴の音がした。どんな遠くに離れていてもアリスには聞こえる鈴の音。チェシャ猫の鈴の音と共に作戦は始まった。パンドラがユグドラシルからの魔力供給を止め、アリス達がエクスカリバーを封じる。その隙を付いて竜化の力を使ったミリアムがラピスを討つというものだった。しかし、ラピスがそれに気づかないはずはない。

『ラピス様』

『分かっている。僕を倒す方法はそれしかない。一縷の希望にすがるのならばね。シルヴィア、ユグドラシルを頼む。古代の力を持つものを狙え』

『はっ』

ユグドラシルをシルヴィアに任せ、ラピスはアリス達へと再び向き直る。

『覚悟は決まったようだね』

『ええ、決まったわ』
『戦う覚悟がね!』

アリスとダークアリスが答える。

『君達では未来は掴み取れない、もちろん、過去も』

『やってみなくちゃ分からないでしょうが!』

『希望を遮れ、ユグドラシル』

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ユグドラシルが一層、大きな瘴気を生む。それはこの星を照らす光を全て遮るように広がっていった。


“新世界童話 リ・アース”第6章へ続く

物語“新世界童話 リ・アース”

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