ギルの物語|第19話 “正史の記憶”

洞窟の奥は不思議な魔力に満ち溢れていた。

そこでギルは瞑想に入る。己の未来、そして、過去と向き合うために。アルハマートの打倒のために精神と肉体の結界を打ち崩すことは、こちらの精神の防御も解くことになる。二者択一になるだろう。生き残るのは、奴か俺か。

瞑想により、ギルは意識の深い所へと潜っていく。そして、アルハマートは現れた。

『我に干渉するまでの力を得たか。それこそ、我が器に相応しい』

宙に浮かぶような感覚。精神が支配する重力の無い世界で、ギルは皇帝と出会った。未来の自分にギルは問う。

『何故、お前はこの世界を滅ぼした?』

『知ってどうする?』

『お前と違うことを証明したいだけさ』

『どちらにしろ、無駄な事だ。ならば、知るがいい』

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アルハマートの記憶の波が、ギルへと押し寄せる。かつて、あった歴史、ギルが忘れていた記憶が流れ込んで来る。

……

それは、かつての幼き記憶だった。

幼きギルは父と母、そして、弟と一緒に暮らしていた。ギルとは性格は正反対で、引っ込み思案の弟の名前はラピスといい、彼の後ろをいつもちょこちょこと付いて回っていた。

ギルの母親は不思議な力を持っていた。自然と対話する力とでも言うのだろう、彼女の持つ魔力のペンダントを通じて自然は彼女の声に答え、葉っぱのような生物として動き出すこともあった。彼女の性格を反映してか、それらは決して攻撃的ではなく、自然の持つ、治癒の力を増幅させる触媒となった。彼女は傷つく人を見てはその力によって、人々を癒していった。そしていつしか、その治癒の力の噂を聞きつけ、多くの人間、パンダ、竜人などが訪れるようになった。対して、父は正義感こそ人一倍だったが、特別な能力は持っていなかった。けれど、特別な力は無くとも出来ることはいくらでもある。それは、身近な人を守ること。それが父の信条だった。

そんな母の力を受け継いでいたのはギルだけで、ラピスにその素質はまったく無かった。ただ、ラピスはそれを全く気にしていないようだった。

しかし、平和な時は長く続かない。母の力はあまりにも特別で、そして、その力を広めすぎたのだった。彼女によって癒しを受けたものがすべて感謝の感情を抱いてくれたとしても、その話を聞いたものまで、そうだった訳ではなかった。その話を聞いたものの中にはその力を自らのものにしようとするもの達が現れた。彼女の持つ、魔力のペンダントがその力を持つと考えての事だった。それは、彼女の力を増幅するだけのものだったが、略奪者達はそう思い込んでいたのだ。

パンダ、竜人、人間、エルフ、力を欲するために集まったそれらは徒党を組み、ギルの家へと押し入った。父が時間を稼ぎ、一旦は森へ逃げることが出来たが、追っ手は迫っていた。そこで、母は自らが囮となって、子供達を逃すことにした。母は自分の力だけが目的であると思ったのだ。そして、魔力のペンダントをギルへと託し、ギルはラピスを連れて、森の奥へと逃げたのだった。

母に誤算があったとすれば、略奪者達は魔力のペンダントを目的としていたこと、そして、ギルが母の力を受け継いでいたように、ラピスも父の心、身近な人を守るという正義感を秘めたる想いとして、受け継いでいたことかもしれない。ラピスは追っ手がペンダントを求めている可能性に気づいていた。そして、ギルが振り返ると、ラピスが立ち止まっていた。

『にいちゃん。ごめん』

そう言うと、ラピスは手に持っていた石でギルを殴り気絶させたのだった。そして、魔力のペンダントを持って、立ち去っていった。ギルが目を覚ますと、ラピスの足跡は再び母の方に向いていた。それを追ったギルが見たものは、折り重なるように倒れ、事切れた二人の姿だった。ギルは泣き続け、意識は途絶えた。

それから、ギルが目覚めたとき、彼はローライトの庵に居た。そして、起こった何もかもを忘れていた。それから、ローライトの元で修行を続けたギルは、受け継いだ母の力を覚醒させ、風の魔法を習得していく。ローライト自身も風の魔法を研究していたこともあり、ギルは素晴らしいスピードで成長していった。

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ローライトが新しく7人の弟子を取るとなったとき、ギルはローライトに言われ、見識を広めるために旅に出ることにした。ある時、古の地下図書館でギルは偶然にも隠された伝承の力があるのを知ったギルは、好奇心に駆られ、禁忌の力の内の一つがある、久遠の塔へと赴いた。そして、そこには二人の聖女が居た。この場所を訪れることが出来るお前は何者だ? という問いにギルは答えられなかったが、こ生まれ持った力が関係あるのだろうとは予想できた。ただ、禁忌の力を得ることの条件“ヴィオラとの契約”は到底、受け入れ難いものだった。また、大きな力を欲する理由もギルには無かった。

だが、久遠の塔から帰る途中、ギルは突然、何かに呼ばれるような感覚を受けた。一見何の変哲もない森、そこに誘われるように森の奥へと入ると、小さな墓があった。その墓には、ペンダントが一つ掛かっていた。ギルがそれに触れると、ペンダントは輝き、魔力と共に失われた記憶をギルの中へと放った。それは、母のペンダントであり、ギルは過去に起こったことをすべて取り戻したのだった。あれから、起こったことも。

彼を救った、ローライトは母を襲った集団の一人だった。風の魔法を極めたいという探究心に取りつかれていたローライトは特殊な力を持つ、母に興味があった。そして、対象を殺さないという条件でこの集団に加わっていた。しかし、その条件は父の抵抗によって、簡単に崩れた。いや、もともと彼と行動を共にしていたものは守る気は無かったのだろう。ギルの父は家族を逃すと、激しく抵抗し、同じ集団の竜人の剣によって心臓を貫かれ、即死だった。

ローライトは母とそして、ラピスが殺されて行く様を見て、激しい自責の念と後悔に包まれた。彼の仲間はペンダントに何の価値もないことが分かると、それを捨て去っていった。ローライトはそれを拾い、母とラピスの元へ行った。墓を作り、ペンダントを返すために。そこに、ギルが居た。ギルは泣き疲れ倒れていた。そして2人の墓を作ると、ペンダントを掛け、悲しい物語を忘れる魔法を掛けたのだった。

その記憶を受けたギルは、久遠の塔へと引き返していった。力を得る制約の条件、その鍵となる竜人のヴィオラに心の隙があるのを先程の出会いで感じていた。そう、彼女は解放されたがっているのだ、この使命という牢獄から。ギルは『ヴィオラの望まぬように、この力を使わない』という制約を交わすと、彼女を言葉たくみに籠絡し、使命からの解放を条件に力を自由に使えるようにしたのだった。

この時のギルには哀しみを背負う事も復讐心を制御することも出来なかった。世界を見て回り、あらゆる人々の生活と優しさに触れること、それが、ローライトの望んだ事だったが、それは叶うことは無かった。

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ギルはその力で師匠であるローライトを殺すと、7人の弟子を隷属し、古代の地下図書を研究していたレイチェルを禁断の書から悪魔へと誘った。そして、家族を殺した、パンダや竜人の一味をその国ごと焦土と化すことを決意する。その過程で、時間を研究していたアリサリスや、奴隷の少女にして竜の力を秘めたシルヴィア、残忍な盗賊団の長ブレイザーを配下としていった。そして、パールシュタインやキリク、シーラといった勇者を倒すと、ギルは究極の存在となるため、アルハマートを名乗り、この世界を焦土と化したのだ。

アルハマートは空に浮かぶ都市を作り、そこで、研究をしていた。久遠の塔の遥か地下に眠っていた、フルートと言う竜人が時間に関わる力を持っているのは分かっていた。だが、それはあまりにも手を出すには危険というのも同時に感じていた。光の神殿、虹の空島、超竜の巣、雷の洞窟などに眠って居た力はすべてアルハマートが手に入れていたが、それでも、この“時還”の力に手を出すことは自殺行為に思えた。

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ある時、アルハマートは魂を呼び戻す研究を始めた。ギルの代わりに犠牲になった、ラピスの魂を再び戻すために。魔素でラピスの体を作りあげると、アルハマートは器へ魂を呼び出すための、儀式を行った。しかし、器となる体を強力に作りすぎてしまった影響かそれともラピスの魂を戻すということ自体が不可能なのか、遥か異次元から強大な魂が召喚され、この体へと定着してしまった。それこそが、異世界の支配者、神竜ラグナロクの魂だった。

しばらくの間、ラピスの体で眠っていたラグナロクの魂だが、アルハマートが留守の間に目を覚ます。記憶は植え付けらた、アルハマートの息子であるという以外、何もない。だが、その魂はこの世界の理を知り、そして、本来の体を無意識に求めていたのだろう。側に居たアリサリスを隷属させると、時を加速させる力で、帰還したアルハマートをその空中都市ごと、遥か未来へと飛ばし、反逆したのだった。そして、ラピスはアリサリス、シルヴィア、ブレイザーを従えて、本来の体を求め、この次元を飛び出していった。

その後、アルハマートは次元を漂い、一万年の時を越えて漂着する。その心にはもう、父の高潔な意志と母から受け継いだ優しさは欠片も残されていなかった。




正史の記憶がギルへと流れ込む。

『すべてを捨てて、世界を憎め。そうでなくては、あの魔女は倒せん。さあ、選べ。隷属か死か』

アルハマートはそういうと、正史の記憶から、彼に仕えていた戦士を具現化させる。流れ込んだ記憶にギルの目には涙が浮かんでいた。

『俺はおせっかいな父と母の息子だからな。だから、仲間を悲しませるようなことは』

ギルは吠えるように答える。

『できねぇんだよ!』

その言葉によって、精神世界は鏡のように割れていった、そして……。

“ギルの物語”第20話へ続く。

ギルの物語

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