とある次元の狭間 -幕前-

「それで、どうなったの?」

少年は語り手に聞く。

「“どうなるの?”でしょ」

「そっか」
「そうよ」

少女が少年の言葉を正す。

「お前ら、少しは意見を合わせらんねえのかよ。話の流れは分かった。で、誰がそこに行けばいいんだ?」

さらに、猿の風貌の男が口を挟む。

「まだ話の途中だよ。お猿さんは黙ってて」

「そうよ」
「そうだよ」

「このガキどもが……こんな時だけ」
珍しく、少年と少女の意見が一致する。それを見た猿の風貌の男は今にも飛びかかりそうな様子を見せた。

「そのあたりにしておきなさい」

それを制したのは、物語を聞かせていた語り手だった。

不思議な空間の小さな星の上に彼らは居た。その星からは次元の入り口が星のように瞬いているのが見えた。それは、大きく輝くものもあれば、今にも消えそうな光を灯すものもあった。

「孫悟空、あなたに行って欲しいと思っているの。リフレクトとリフレインにはこの前、行って貰ったから。アーデルベルトにはもう許可は取ってあるわ」
語り手が孫悟空と呼ばれた男に答える。

「目的は観察か?」

「そうね、今回は特異点の動向に注意して欲しいの」

「干渉する必要はあるのか?」

「今のところは無いわ」

「何だ、つまんねえ。体が訛っちまう。それなら、新入りに任せておけばいいだろう」

「彼女は別の役割があるわ。それにもし、干渉することになった場合、素早く動けるあなたの方が適任なのよ」

「まあいい。しかし、本当に何か“大事”が起こりうるのか?」

「私の能力の性質は理解している?」

「話半分にはな」

「三蔵法師に散々言われているでしょうに。人の話を聞いておきなさいって」

「あいつは説法が趣味だからな。こっちが話の半分を聞いてやってるのさ。確か……お前のは未来を知る能力だったか」

「正確には未来と過去の可能性を知る能力よ。私の魔導書“千夜一夜物語”には様々な物語が自動で書き足されていくの」

「それで、その未来には何が書かれてるんだ?」

「近い未来しか書かれていないことが問題なの。つまり、これから起こるであろう事象は特異点による運命の分岐」

「ふん、面倒くせえ話になりそうだ。俺は“奴ら”を見張ればいいんだな?」

「ええ、お願い」

「分かった。しかし、未来を変える程の奴らには見えないがな。来い、觔斗雲!」

小さい雲の乗り物がふよふよと孫悟空の元へと到着する。彼はそれにひょいと飛び乗ると、次元の先へと消えていった。

「そう簡単には行かないわよ、孫悟空」

物語の読み手、シェヘラザードは孫悟空が消えていった方向を見て、そう呟く。

「さて、話を続けましょうか」

「早く早く。待ちくたびれちゃったよ」

「いいえ、そんなに待ってないわ」

「そっか」
「そうよ」

シェヘラザードは“千夜一夜物語”を開くと、最近になって書き足された物語を読み始めた。

「幻想の月を見たルーニャはニャルラトホテプとして覚醒し、アルティアの七曜の魔導師、水のマナの力を持つメリクリウスを打ち倒します。そして、ミリアム達はラピスから取り戻したレガリア“ジ・アース”再生の鍵である、ルミアの救出に成功するのです。一方その頃、かぐやとフィースシングは謎の吸血鬼、御影清十郎との邂逅を果たしていました。それはお互いの力量を測るのみで終わるものの、その戦いの終わりに古の超魔道国家アルティアが姿を現すことになるのです。

 これを見た、フィースシングとかぐやは大きな脅威の訪れを感じ、六賢者の復活を急ぐことにします。真魔石となり、先の大戦で各地へと散らばっていた六賢者は世界の魔力の高まりによって共鳴し、大きな魔力を持つものならば、それを察知できるようになっていました。フィースシングとかぐやは二手に分かれて真魔石を探し始めます。そして、グラスバレスタが封印された真魔石はかぐやが見付けますが、フィースシングが探しに向かったムージュダルトの真魔石は何者かによって持ち去られた後でした。御影清十郎に足止めされていたとはいえ、フィースシングよりも早く動くというのは、余程の魔力と執念が無くては成し得ないでしょう」

「そんな人が居たんだ」

「“居るんだ”でしょう?」

「そっか」
「そうよ」

「ルミアを助けたミリアム達は王城ライトパレスへ急ぎ戻ります。しかし、その道中、再びアルティアの七曜の魔導師、炎のマナの力を持つマルスに襲撃されます。

活動時間の限界を越えたニャルラトホテプはルーニャに戻っており、再度の覚醒には魔力の補充が必要で、戦力として数えられない状態でした。マルスの古代魔法の前にミリアム達は劣勢に立たされます。

すると、そこへ突如現れた謎の騎士グロリアスがシャルロッテの窮地を救い、その剣技でマルスの隙を作ったのです。好機を得たミリアムは炎を押さえ込む輝きを放ち、ゼロが不意を突く形で漸くマルスを打ち倒すことが出来ました。

このマルスの炎を封じたミリアムの力は不思議な魔石によるものでしたが、その力の正体にはまだ本人も気付いていません。そして、彼らは無事に王宮へと辿り着いたのです」

「そっか、無事に戻れたんだね」

「いいえ、これから“戻る”のよ」

「そっか」
「そうよ」

「さて、今日はここで終わりにしましょうか」

「えー」

シェへラザードは“千夜一夜物語”を閉じると少年と少女へそう告げた。二人は少し物足りなそうにしていたが、この先、さらに未来の物語はまだ記されていなかった。

「こんなにも未来と過去が不安定なのは千年ぶりかしら」

シェヘラザードは空白のページを見て呟く。その時、一つの大きな次元の輝きが見えた。それが誕生を意味するのか、滅亡を意味するのか、彼女にも分からなかった。


物語"運命の再会"