“運命の再会” 第4章-運命を紡ぐ風-

万の時を生きる皇帝、ギル・アルハマートは、空に浮かぶ城の中に居た。

「レイチェル」

「はっ」

「間もなく来訪者が現れる。もてなしの用意を頼む」

「どのような趣向を凝らしましょう」

「力が見たい」

「かしこまりました」

レイチェルと呼ばれた秘書は手はずを整えるべく、空中に巨大な魔法陣を描く。しかし、その魔法陣からはアルティアの魔導師ではなく、巨大な黒竜の足に捕まった少年が現れた。

「その必要はない。ありがとう、ニーズヘッグ。降ろしてくれるかい」

ニーズヘッグと呼ばれた黒竜が地面へ近付き、少年は降り立つ。

「帰ってきたよ、始まりの場所に」

「ラピス様」

「生きていようとはな」

「生憎、僕は貴方の息子ですから」


「ここへ辿り着くまでに七曜の魔導師が何人か居たはずだが」

「ええ、居ましたよ」

ラピスが合図をすると、ニーズヘッグの背中から意識を失った魔導師達がアルハマートの目前に落ちてくる。彼等はアルハマートの力を分け与えられた中でも、強力な力を持つ七曜の魔導師達だった。三人は居るだろうか。ニーズヘッグが咆哮し、アルハマートを威嚇する。

「お蔭で僕が背中に乗れませんでした」

「アルハマート様、ルナ以外の七曜の魔導師は全てあそこに」

「ほう、少しはやるようになったか」

アルハマートは視線をニーズヘッグへと向ける。強大な力を持ったドラゴンは、それだけで金縛りにあったように動けなくなった。

「あなたもお変わりなく。今日は挨拶に来ました」

「私を倒しに来たのではないのか?」

「ええ。僕の目的は貴方を倒し、時還りの術法を得ること。それに変わりはありません。ただ、今はあなたを倒すことが出来ません。時期尚早、というものです」

「ほう、いつかは倒せると?」

「準備は整いつつあります。それに、この世界の者達も侮れませんよ。僕も少し手を焼きましたから」

「忠告はありがたく受け取ろう」

「では」

ラピスはニーズヘッグと共に魔法陣の彼方へと消えていった。

「時還りの術法か。世界を再編しようとでも言うのか」

「僭越ながらお聞きしますが、ラピス様が反乱を起こした理由もそれでしょうか?」

「ああ、そうだ。あいつは時還りの術法を求めて反乱を起こし、魔術結界を暴走させた。その結果、アルティアの時は加速し、この世界へと飛ばされた」

「ラピス様の件、私に任せていただけませんか?」

アルハマートは倒れている七曜の魔導師達に目を向ける。

「役に立たぬものに用はない」

魔導師達の力が、みるみるアルハマートに吸収されていく。全て吸い尽くした時、その場には何も無かった。

「分かった、ラピスは任せる。ならば私は挨拶に行くとしよう、この世界の者達に」

「かしこまりました」

アルハマートはそう言うと即座に魔法陣を作り上げ、その中へと消えた。詠唱無しで瞬間移動が出来るのは、アルハマート様くらいだとレイチェルは思った。

「それにしても、ラピス様が本当に戻られるなんて。きつくお仕置きしなくては」

レイチェルは微笑みながら、空の下を覗いていた。

その空の下、月の魔石の欠片を集めたかぐやはライトパレスへ戻るところだった。

「グラスは途中で用事があるとか言って、どっか行っちゃうし。でも、早いとこ他の六賢者も復活させたいし」

グラスバレスタは「俺が戻るまで待っていてください」と言っていたが、じっとしているのが苦手なかぐやは一人で戻ることにしたのだ。

「本物の月なんて無くてもいいんだけどな。私が強くなくても、皆が強いし」

かぐやは昔の自分を取り戻したいと、そこまで思っていなかった。転生して、フィースとゼロに育てられて、これ以上、幸せなことは無い。寧ろ、思い出すことで今が壊れてしまう方が嫌だった。新たな敵やラピスの問題もあるけど、頼れる仲間が居るから大丈夫。それが、今のかぐやの思いだった。

そう考え込んでいるかぐやの上空に、不可視の魔法陣が浮かび始めていた。

一方、ライトパレスでは、フィースシングだけがその異変に気付いていた。

「まさか……来る」

「フィース、どうした」

「ゼロ、ここを頼む。何があっても外へ出るな」

フィースシングは風に乗り、城の外へと飛び出した。あの化物の気配が近付いている……もう来るとは。運命は風のように気まぐれだ。さて、どう食い止めるか。一見、空には何も見えない。しかし、フィースシングは空から巨大な隕石が落ちるよりも大きなプレッシャーを感じていた。そして、その下には、かぐやが居た。

「あ、フィース!」

「かぐや……何故ここにいる! こっちへ来るな! 逃げろ!」

「えっ?」

かぐやが素っ頓狂な声を上げる。まずい、かぐやは危機を感じていない。その刹那、空に巨大な魔法陣が具現化した。中から姿を現したのは、アルティアの皇帝、ギル・アルハマートだった。

「黒雷」

アルハマートが言葉を放つ。最も短い詠唱。しかし、それにしては余りにも強力すぎる魔法だった。黒い雷はスコールのように辺り一面を覆い尽くし、かぐやの頭上に降り注いだ。

「うそ」

不意に出現した黒い雷がこちらへ迫ってくる光景を、かぐやはスローモーションで見ていた。これまでの思い出が走馬灯のように脳裏をよぎる。脅威がもう目前という瞬間、一人の影が目の前に現れた。

「本当に手間を掛けるね、かぐやは」

「フィース!」

黒い雷はフィースシングを刺し貫いていた。貫かれた体と口から鮮血が噴き出す。

「……かぐや、良く聞いて。僕が風を起こすから、君はライトパレスへ行け。本気の魔法だ。あいつでも手は出せない」

「でも、フィースは…!」

「僕は大丈夫だから、早く行け!」

かぐやはフィースシングが声を荒らげるところを生まれて初めて見た。

「すぐに、すぐにみんなを連れて戻るから!」

かぐやは泣きながらライトパレスへと駆ける。自らの無力さを呪った。何が幸せだ。何が、仲間が強いから大丈夫だ。私は、私は、ただのお荷物じゃないか!

「かぐや、ありがとう。短い間だったけど、君といられて僕は幸せだったよ――」

フィースシングの風はあたりの黒雷を払い、広範囲の風の障壁を生み出した。しかし、その風の中心にはもう誰も居なかった。

物語"運命の再会"