“運命の再会” 第1章 -ルミアの目覚め-

「冷たっ」

水滴が頬に落ちると、ルーニャが大げさに叫ぶ。空はいつの間にか雲に覆われていた。

「雨が降ってきたね」

「もう早く帰ってお風呂に入りたいー。嘘じゃないよー」

「あの、冷たい水なら、いつでも出せるけど……」

シャルロッテがルーニャに申し訳なさそうに提案する。

「じゃあ、キンキンに冷えたやつ! って全然要らないから!」

ミリアム達は王城帰還の道中にいた。つい先程、激しい戦闘を終えたばかりにも関わらず、ルーニャは元気だった。そもそも“ルーニャ”の方はほとんど戦いに参加しておらず、「皆、頑張って! 嘘じゃない!」としか言っていないから元気なのかもしれない。

「あの人は一体、何者だったんだろう……」

メリクリウスを倒し、ルミアを助け出した後、ミリアム達はマルスと名乗る炎の魔導師の襲撃を受けた。

その窮地を救ってくれたのが、仮面を被った白銀の騎士だった。

その騎士はグロリアスと名乗り、また会うことになるだろうと告げて去っていった。

「私、懐かしい感じがしました」

ミリアムの言葉を拾うように、シャルロッテが話を始めた。

「懐かしいって、シャルロッテの世界の?」

「はい。私、病弱でずっと寝たきりだったんです。外に出られなくて、友達も居なくて。そんな私の為に、お姉様が色々なものを持ってきてくれたり、たくさんの話を聞かせてくれたりして。それで、去り際には必ず、また会えるからって言ってくれて。そうやっていつも見送っていた背中に、ちょっと似てたんです」

「そうか。頼れるお姉さんだったんだね」

「はい。私は頼りないですけど、お兄様とお姉様はとても優しくてかっこよくて、私の自慢だったんです」

「また、会えるといいね」

「……はい」

雨が降り注ぐ中、一行は王城へと辿り着いた。ルミアは氷棺から救出されたものの、今は眠っている。その目覚めと快復を待ってから、ラピスより取り返した“ジ・アース”の再生に取り掛かることに決めた。

「さて、ルミア様が目覚める前に少し考えるべきことがある」

ゼロが話を切り出す。

「皆でお風呂ーっ! ……じゃあ、ないよね」

ゼロが険しい目を向けると、さしものルーニャも黙らざるを得ない。ただ、喋らずにはいられない“性質”を持つルーニャは、まるで陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクとしていた。

「ルミア様を閉じ込め、私達を襲った奴等は何者なのかということだ。分かっているのは、私達とは異なった魔法を使うということ、そして、私達の味方ではないということだ」

「ルミアさんを閉じ込めた理由は何なのでしょう?」

シャルロッテが疑問を口にする。

「そうだな。こういう推測はフィースが得意とするところなんだが。シャルロッテ、逆に訊くが、奴等は向こうの世界で戦った相手とその仲間ではないのか?」

「……その可能性はあります。あの特殊な魔法は、私の世界でラピスが放ったものと似ていたようにも思いますし。私は目覚めてすぐにこちらへ来たので、私の世界での“敵”と同じかどうかは、アリスさんが目覚めるか、かぐやさんが戻ってきたら、分かるかもしれません」

「アリスはまだ目覚める気配がない。かぐやとフィースの帰りを待とう。ミリアムの不可思議な力も、奴等と関連があるかもしれない」

「僕の力が、彼等と?」

「これまでの出来事から逆算すると、その可能性が高い。ルミア様が何かを見付け、それによって奴等に閉じ込められた。とすれば、その見付けた何かの一つは、その魔石だ」

「この魔石は……」

「それは、古代の魔石」

寝室の入り口にルミアが立っていた。

「ルミア様!」

「もう大丈夫なのですか?」

「ええ、何とかね。ありがとう、助かったわ」

「古代の魔石とは一体?」

「失われし文明の欠片とでも言うのかしら。最近になって活性化し始め、各地で見つかり始めたの。それを調べている内に、あの魔導師が現れた」

ふむ、とゼロが唸る。

「どちらにしろ、かぐやとフィースが戻ってから、取り掛かった方が良さそうだな。ルミア様、目覚めたばかりのところ申し訳ありませんが、あるものの復元を頼みたいのです。シャルロッテ、例のものを」

「はい」

「これは……」

シャルロッテは“ジ・アース”をルミアに差し出した。球体の中には荒廃した世界が広がっているように見える。

「私の次元を滅ぼした、ラピスという“敵”から取り返したものです。かぐやさんとアリスさんは、これを故郷だと言っていました。
これの再生が新しい力を得るきっかけになるかもしれない、と。それでルミアさんに会いに、この世界へと来たのです」

「そうだったの。分かったわ、少し時間を貰うわね」

ルミアは一振りの剣を取り出すと、それに力を集約する。その光に導かれるように、“ジ・アース”は輝きを放ち始めた。ルミアの再生の力により本来の姿を取り戻したのだ。

「すごい……」

シャルロッテが感嘆の声を上げる。そして、“ジ・アース”の復元は、再び紅き存在を呼び起こす。魔力の躍動が、ルーニャをニャルラトホテプとして覚醒させたのだった。

「ふふふ……久しぶりじゃない」

ニャルラトホテプが不敵な笑みを浮かべた。

「赤女ッ! 封印が解けているなんて」

かつての仇敵の覚醒を前に、ルミアは咄嗟に剣を突きつける。その眼光は鋭く変化し、聖女の優しさは消え失せていた。

「あなたを助けたのは私なのに、ずいぶんな扱いじゃない?」

「頼んだつもりは無いわ」

「昔は色々あったけど、今は味方よ。ふふふ……嘘じゃないわ」

「色々ありすぎよ。あなたには言いたいことがたくさんある」

「そう、それは楽しみ」

ルミアの言葉に構わず、ニャルラトホテプが剣の横をするりと移動した。

「どこへ行こうというの。私、あなたから目を離さないわよ」

「ふふふ……決まってるじゃない。お風呂よ」


物語"運命の再会"