“聖魔大戦” 第2章-かぐやの目覚め-
「この速度についてこられるとはね」
ラピスが振り返り、2つの影を視認する。それは、ラピスと共に高速で飛翔するニーズヘッグをピタリと追走していた。
「仕方がない。まだ、復元が不完全だが、君達には彼と遊んでいて貰おう。ブレイザー」

ラピスの作り出した魔法陣から、もう1体の巨大なドラゴンが出現する。それは、異形と呼ぶに相応しい存在だった。その体は崩れ、動くたびに肉が千切れ落ちていく。咆哮は低いうめきとなり、まるで、地獄を思わせた。
「君たちとは少なからず因縁があるだろう」
「この感覚は……奴か」
ファリアが出現したドラゴンに反応する。形状こそ大きく異なってはいるが、かつて、霊樹の森で戦った、あいつに間違いない。
「プリシア、まだ、飛んでいられるか?」
「うーん、あと、60秒ってとこ!」
「十分だ」
ファリアはプリシアに捕まりながら、片手で剣を抜く。
「私が合図をしたら、奴の真上へ飛んでくれ」
「わかった!」
プリシアは炎の翼を羽ばたかせ、ブレイザーへと直進する。それに反応し、プレイザーは攻撃態勢に入る。見た目通り歪んだ魔力を含んだ強力なブレスを、見た目とは裏腹に超高速で繰り出そうとしていた。しかし、その攻撃が行われるよりも一瞬だけ早くファリアが動く。
「今だ!」
ファリアの合図でプリシアが軌道を変える。ブレイザーが放つブレスを紙一重でかわすと、ブレイザーの上へと飛んでいた。ブレイザーの真上で、ファリアはプリシアから手を離すと、その背中へと降り立った。
「存在が進化しても、行動パターンは単純だな」
ファリアの剣がブレイザーの首を素早く切り裂いた。行動を止めるのに十分かつ最小限の一撃。そして、そのままブレイザーの体を強く蹴ると、ラピスの元へと飛翔する。獣の膂力を利用した動きをファリアは完全にものにしていた。
「足止めにもならないか」
召喚のために減速していたラピスをファリアは見逃さず、追撃する。
「私を侮るなよ」
しかし、ファリアの剣がラピスに届こうとするその瞬間、ラピスの剣がファリアの剣を受け止める。それは、ファリアにとって見間違うはずもない剣だった。
「まさか、それは」

「これもまだ不完全だが、君には敬意を表して見せるとしよう」
「エクスカリバー」
「そうだ。君を退けるには適任だろう」
ラピスの持つエクスカリバーから放たれる光は黒く濁っていた。アトラクシアの吸収がラピスに与えた大いなる力の一つ。エクスカリバーのもう一つの姿。
「アトラクシアの聖王よ、また会おう」
ラピスのエクスカリバーによって、ファリアは大きく弾かれ、地へと落ちていく。
「ファリア、捕まって!」
「すまない、プリシア」
プリシアが落ちゆくファリアを助けたときには、すでにラピスの姿は消えていた。
「時間切れか。一旦帰還するとしよう」
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その頃、ゼロ達はフィースシングが居た場所へと来ていた。その場所は静まり返っており、まるで、何事もなかったかのようにさえ見えた。
「フィース! どこだ!」
ゼロの声にも反応はない。あたりの風は、静かに木々を揺らすのみだった。
「フィース……」
かぐやはまだ、泣いていた。そして、その泣き声に呼応するように、一陣の風が、かぐやの周りを取り巻いていく。それは、フィースシングが最後に残した風だった。
「かぐや、聞こえるかい?」
「フィース!」
かぐやが顔をバッとあげる。しかし、目前にフィースシングはいない。フィースシングの残した言葉が風となって、かぐやの元へと届いたのだった。最後のメッセージとなって。

「かぐや、良く聞いて。君は未来へと生きている。だから、僕の事はすぐとは言わない、忘れてくれ。君はまた、過去に縛られて生きてはいけない」
「でも、でも」
「僕は幸せだったよ、君と会えて。だからさ、ここでさよならだ」
一陣の風はかぐやへと語りかける、フィースシングの思いと共に。
「うっ、うっ、ううっ……忘れられないよぉ」
かぐやの大粒の涙が落ちると、その風が涙を包んでいった。そして、包まれた涙は魔石となって光を放つと、竹の林を生み出していく。それはさらにかぐやを包み込んでいった。
「お嬢!」
異変に気付いた、グラスバレスタもこの地へと戻って来ていた。そして、かぐやが光から姿を現したとき、その姿はかつて、千年の時を越えたときの姿へと戻っていた。六賢者と力を合わせて、クトゥルフを封印した、あの頃の姿へと。
「グラスバレスタ。この“姿”ではおひさしぶりですね」

かぐやは、千年姫の姿へと戻り、グラスバレスタへと話し掛ける。
「お嬢、その姿は」
「今は……語るべき時間はありません。他の六賢者を復活させるとしましょう」
フィース、今、成すべきはこの世界を守ること、そうですね。
「私はもう、誰も死なせたりはしない。フィース、あなたの事もいつか必ず…」
かぐやの決意は一つの道を切り開く。
“聖魔大戦” 第3章へ続く