“聖魔大戦” 第3章-白竜姫 リュラ-

世界は炎に包まれていた。その消えぬ炎によって多くの国が焦土と化し、滅んでいった。その元凶となったのは、黒の竜の巫女と融合し竜化した魔術師だった。目の前で竜人の子供が助けを求めて手を伸ばす。しかし、こちらからは手を伸ばせども決して届かない。そして、その子供もまた炎に包まれていった。

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リュラはそこで悪夢から目が覚めた。

「いつもの夢」

ぽつぽつと水滴が落ちる音がする。真下の石畳には水滴が穿ったのだろう、ぽっかりと穴が空いていた。リュラはアルハマートによって、古びた神殿へと幽閉されていた。彼はここを“竜獄”と呼んでいたが、リュラにはこの神殿に見覚えがあった。この時代へと飛ぶ前にもあった神聖な力を宿していた神殿。長き時を経ても完全に崩れ去っていないのは、聖なる魔力が少しは生きているからかもしれない。

神殿の周りには魔法の結界が張られていた。アルハマートの力で作られたこの結界は古代の力を持つものにしか破れないことをリュラは知っていた。アルティアと共に時空を漂流し、遥か未来へと辿り着いたことを考えると結界の破壊は望むべくもない、そのはずだった。

「この世界も終わりね」

リュラがそう呟いたとき。ぽつぽつと落ちていた水滴がピタリと止まった。上を向くと、空から光が差し込んでいた。天井の瓦礫が取り除かれそこから光が差し込んでいたのだ。

「よいしょっと、これでいい? ルミアは狼使いが荒いったらありゃしないんだから」

「それは私のセリフよ。まあ、文句を言うのは赤女の方にだけど」

「ありがとうルーニャ」

ここへ入って来たのは、ルーニャ、ルミア、ミリアムの3人だった。

「あなた達どうやって?」

「いろいろ話すと長くなるし、まずはここから出よう。他にも待ってる仲間がいるから大丈夫だよ」

「そうそう、何百人っているんだから、嘘じゃないよ!」

「ルーニャ、嘘はやめなさい」

リュラは絶望に覆われた空に、一途の希望が空から差し込むのを感じた。

……

ミリアム達とリュラが邂逅する少し前のこと。ラピスが去っていった後に、ミリアムはラピスの言葉を反芻していた。

「竜の巫女……」

「えっ、知ってるの? 嘘? 嘘?」

この一連の戦いで傍観を決め込んでいたルーニャがミリアムの言葉にだけ、適当に噛み付く。

「僕が子供の頃に良く見た夢に出て来たんだ。神殿で祈りを捧げる竜の影を宿した女性が。彼女はいつも、炎に包まれた世界で子供達を助けようとしていた。彼女がもし竜の巫女ならば、僕の不思議な力の秘密とも関係があるのかもしれない」

「すぐに出発するわ。ミリアム、ルーニャ、私達で行くわよ」

「ルミア様」

「私が古代の魔石を調査していたとき古びた神殿を見つけたの。その時は何も感じなかったけれど、今思えばその後にアルティアの魔導師に襲われ、閉じ込められたことも偶然では無いのかもしれない。神殿を見つけた私を封印したと考えれば、神殿には何かあるはずとも言えるわ」

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「それは分かったけど、何で私も?」

ルーニャが話を遮りながら、異議をとなえてみる。

「赤女。あなたからは、目を離さないって言ったでしょ」

「えー。私はそんな名前じゃなーいしー、嘘じゃないしー」

ルミアが引きずるようにルーニャを連れていく。

「お兄様、ミリアムとルーニャを借りていきますね。ライトパレスをお願いします」

「分かった。ミリアムを頼んだよ、ルミア」

「はい。お任せください」

ルミアにはそこまで確信があったわけではない。しかし、あの“ラピス”という奴が無駄な嘘をつくようには見えなかった。こちらに何かを感じた上で、わざわざ現れたのだ。その何かを感じた相手がミリアムなのかどうかは分からない。ただ、今あるすべての事象がリンクしているとしたら……。

その疑念が確信へと変わったのは、旅の道中でアルティアの兵士を多く見かけたからだった。その先に守りを必要とする何かがあるのは明白だった。

「少々敵の数が多いわね。さて、あなたにも働いて貰うわよ」

ジ・アースが輝きを放つ。ルミアによって再生されたそれは、覚醒の力を回りへと与える。ミリアムはこれによって不思議な力を持ち、ルーニャはニャルラトホテプへと変化した。

「また私の力が必要? 全く人使いが荒いわね」

「人じゃないでしょ、化物のくせに」

「今はまだ“人間”だし、あなたたちの味方。ふふふ……嘘じゃないよ」

「いいわ、力を貸しなさい。付いて来れる?」

「ふふふ……私を誰だと思ってるの? あなたこそ、付いて来れる?」

「上等よ。行くわよ! 赤女!」

ルミアとニャルラトホテプの魔力の相乗効果は絶大だった。光と炎の螺旋が、アルティアの兵士達を焼き払っていく。跡形も無いとはこの事だった。

「すごい」

ミリアムが感嘆の声を上げる。

「さ、片付いたわね」

何事も無かったかのようにルミアが声を掛けると、3人はその先の神殿へと向かった。そして、リュラを助け出すに至ったのだった。

……

「僕はミリアム。君が竜の巫女?」

リュラを助け出した3人は、ライトパレスへの帰路にいた。その道中で、ミリアムがリュラに聞く。

「私はリュラ。竜の巫女という話、一体誰から?」

「事情が複雑で長くなってしまいそうだから…どうして閉じ込められていたのか、アルティアとは何者なのかを先に話してくれないかい?」

「分かりました」

リュラが話しを始める。

「私達、竜人はかつてこの世界に住んでいた竜の力を内に宿した種族の一つです。その竜人の中でも、竜の巫女はその力を他に分け与えられる特別な存在でした。その力は世界を救うことも、滅ぼすことも出来るほどに。
ゆえに、その力の使用は禁忌とされ、特に竜の巫女と融合する竜化の法を使う事は決して許されませんでした。しかしある時、竜の巫女の1人が禁忌を破り、ある魔道師と竜化の法を使用しました。その魔道師は黒竜となり、世界へと宣戦布告をしたのです。世界は瞬く間に炎に包まれ、多くの国が滅んでいきました。
そして、魔導師は焦土と化した世界に自らの国アルティアを作り上げたのです。その魔導師こそがアルハマート。戦いでは多くの竜人が死に、竜の巫女も多くは死に、今では3人しか生き残っていません」

その時、空から飛来する黒き槍がリュラの前へと突き刺さり、話を遮断した。

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「胸騒ぎがして見れば、どこへ行く」

「ヴィオラ!」

「リュラ、下等生物と馴れ合うか」

「ヴィオラ、あなたの裏切りは許されません」

「彼女は?」

ミリアムがリュラへと聞く。

「生き残りの竜の巫女の1人、そして、アルハマートと融合し世界を炎に包んだ裏切り者です」

「裏切り者? 何を言う、もとより、私の心と体はアルハマート様だけのものだ」

黒き槍がヴィオラの手へと戻る思われた瞬間、その矛先をリュラへと向け、その力を一気に解き放った。

「もはや生かしておく価値はない。リュラ、さらばだ」

「させない!」

ミリアムが咄嗟にリュラを突き飛ばしていた。リュラへ向かった槍は、ミリアムの肩へと突き刺さる。

「ぐっ」

「無駄な足掻きを」

「ミリアム!」

ルミアが再生の力を使用する。しかし、黒き槍の傷は癒える気配は無い。

「致命傷だ。アルハマート様から授かった魔法による傷、この時代の魔法では癒せまい」

「いえ……まだです。私の竜化の力を使えば、この傷を癒やせるはずです」

「この時代に竜化の法を受けられる者はいまい。適合出来ず死ぬだけだ」

「いいえヴィオラ。ミリアムならばこの力を使いこなせると私には分かったのです、遠きこの未来にも、古き力は受け継がれていたのだと」

リュラがミリアムへと手をかざす。

「ミリアム……あなたに私の命と力を託します」

「リュラ?」

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リュラの存在がミリアムへと溶け込んでいく、そして、光が膨張するようにミリアムの体は巨大な竜へと姿を変えていった。

「何だと」

「ヴィオラよ、下がれ」

空から低い声が聞こえた。威圧感に溢れたそれは、アルハマートの声だった。

「しかし」

「下がれ」

「はっ」

ヴィオラが素早く後ろへと飛ぶ。ミリアムの咆哮が光を放つと、先程までヴィオラが居た場所を包み込んだ。そこに留まっていれば、ただでは済まなかったかもしれない。ヴィオラはミリアムの姿を焼き付けるように睨むと、空へ浮かぶ居城へと消えていった。

……

そして、遠くから、この戦いを見ているものが居た。

「召喚の儀を始めよう」

彼は言う。その手にレガリア、アトラクシアを持って。

“聖魔大戦” 第4章へ続く

物語“聖魔大戦”