“聖魔大戦” 第4章-聖魔大戦-

ファリアとプリシアがラピスとの戦いから帰還すると、多くの人の姿は消えていた。

「みんなどっか行っちゃった?」

「やるべきことは多い、分散した方が都合はいいだろう。プリシア、私達も追うぞ」

「そうだね。追おう……アリスを」

プリシアが目覚めたとき、ファリアはある異変を察知していた。それはアリスに起こっていた異変だった。アルハマートの黒き雷が、そしてラピスの接近が影響をしたのかもしれない。気づいたときには、アリスは狂った世界を撒き散らしながら外へと飛び出していた。
存在や認識そのものを不確定にしてしまうアリスの能力によって、離れたとこからは気付くことさえ困難だった。ファリアがアリスの異変に気付けたのは偶然近くにいたから”というだけにすぎない。

「今のアリスはラピスへの憎しみに支配されている。元に戻れなくなる前に止めなければ」

ラピスを追う過程で見つけられれば良かったのだが……ファリアは思う。しかし、必ずラピスの元へと向かう、そういった確信もあった。

「そうだね。アリスは友達だから絶対に助ける!行こう」

「ふふ、そうだな。アリスは大切な友達だ」

ファリアとプリシアは再び、外へと飛び出していった。

……

一方、かぐや達は六賢者の復活を急いでいた。

「グラスバレスタ、一体ここまで何をしていた?」

その道中、ゼロがグラスバレスタへと聞く。

「古い友人とすこし。いずれ戦うであろう、旧敵を倒すために」

「そうか。これからはかぐやから目を離さないで欲しい」

「ああ」

目の前ではかぐやがアルメリアスの真魔石の前で詠唱を行っていた。今のかぐやならば、膨大な魔力を必要とする六賢者の復活でさえ一瞬で成し得るだろう。真魔石は光を放ちながら砕け、アルメリアスが姿を現す。

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「ここは?グラスバレスタ、それにゼロも。一体何があったというんです?」

アルメリアスはあたりを見回す。

「ムージュダルト、ミレスト、それに……フィースシングは?」

アルメリアスは訊く。こういう場所には必ず現れる、フィースシングはそういう存在として彼女の中にあった。しかし沈黙が回答となって、彼女の元へと届いたのだった。

「そう、残念。それで今の敵は誰?」

「アルティアの魔術師だ。伝承で聞いたことくらいあるだろう。さて、ミレストも復活させねばな」

グラスバレスタが答える。

「ミレストね。あいつは寝起きが悪いから。乗り気じゃないけど、仕方ないわね」

「ミリアム達も心配だ。早く皆と合流したい。急ごう」

再会を喜ぶ暇はまだ、無かった。

…………

そしてギル・ラピスは

「ラピス様、こんなところで何をなさっているのかしら?」

「レイチェルか、何千年ぶりにその姿を見るね」

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アルハマートの側近であるレイチェルは青い姿から白と黒、天使と悪魔の両方を兼ね備える姿へと変貌していた。

「圧縮された時空を彷徨っておりましたから、ラピス様ほど懐かしくはありませんわ」

「ああ、そうだったね」

「ラピス様、アルハマート様の元に戻られることはなくて?」

「戻るさ。手に入れたいものがあるからね」

「アルハマート様に勝つおつもりですか?」

「観客席で見ていればいい」

「生憎、傍観の趣味はございませんので。ラピス様にはきついお仕置きをしなくてはいけませんね」

「竜の巫女を止めなくていいのかい?」

遠くで竜の咆哮が聞こえていた。竜の巫女とそれが融合したものによるものだろう。

「なるほど。やはりラピス様の差し金ですか。あちらはヴィオラが適任でしょう。私はラピス様を高く評価しております。ゆえに、ここには私自身が参りました」

「そうか、仕方ない。ヴァランティーヌ居るだろう。少し働いてくれないか」

呼び掛けに応じて、暗闇からヴァランティーヌが姿を現した。

「アリスじゃなくてその女の相手?年上は好みじゃないのよ」

プリシアの体を奪われたヴァランティーヌは、シオンの体を使い復活を果たしていた。アトラクシアが崩壊する直前にヴァランティーヌはシオンの体を奪い、魔石へと記憶していたのだった。

「まあ、試運転にはちょうどいいわね。シオン、あなたの体悪く無いわ。聞き慣れたクラシックのよう」

レイチェル率いる悪魔の軍勢がラピスへと襲いかかる。それに対してヴァランティーヌは音楽を奏でるかのようにそれらを斬り、闇の魔法で撃ち落としていった。

「なかなかやりますわね。でも、いつまで持つかしら」

しかし、レイチェルの悪魔の軍勢は減るどころか増える一方だった。

「演奏時間は4分ってところかしら。アンコールは保証出来ないわよ、ラピス」

「問題ない。それまでに客演が来るはずだ」

ラピスは混沌の接近を感じていた。アトラクシアでは一瞬ではあるものの、自らを脅かしたアレの存在を。

そして、レイチェルの悪魔の軍勢とヴァランティーヌの戦いが続くなか、それはやってきた。

「みゃお〜」

戦場の者がそれを認識出来たのはそれが戦いの中心へと入り込んでからだった。

「この不協和音は何。不愉快ね。それに、ここまで入り込むまで気がつかないなんて」

ヴァランティーヌは猫の鳴き声と共に現れた世界に不快感を露わにする。その中心に居たのは

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「あれは……アリス。いや、ダークアリス?」

狂った世界を構築しながら、戦場へ佇むアリスは混沌そのものだった。その世界に触れたものは正気ではいられないだろう。そんな狂った世界の中でのアリスと従者達はまるで、パーティーを行っているようだった。

「殺し合いの最中にすまないね」
「僕達、ちょっと探し人をしているのだけど」
「いっつも、すました顔をしたさ、黒い少年を知らないかい」

狂った帽子屋、ネムリネズミ、三月ウサギ。アリスの従者達が話始める。

「あー。そうそう、まるで」
「そこにいる」
「少年みたいな」

3人が同時にラピスの方を向く。その中心で亡霊のように動いていたアリスもラピスの方へと顔を向けた。片目は黒く変色し憎しみが宿っていた。アリスはラピスを確認すると、ゆっくりとその世界を拡張していく。そして

「みーつけた。僕達もパーティーに混ぜてよ、殺戮パーティーにさぁ!」

帽子屋が叫ぶと狂った世界がアリスと共にぐにゃりと動き始めた。

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「さて」

アリスの登場によって戦場の中央に結界が展開され、自由は大きく束縛されていた。レイチェルと悪魔の軍勢も簡単に動ける状態には無い。これは儀式を行なっている最中のラピスにとっては好都合だった。アリスそのものが、ラピスへと向かってくるという点以外はだが。

「あらあらラピス様。とんでもないものを飼っているのかしら」

レイチェルはアリスを見定める。

「手を出さないとは臆病だね。レイチェル」

「慎重と言って欲しいですわ。それにそのご婦人、ラピス様にご用があるようですから」

「アリス……今度こそ、その体貰うわよ!」

ラピスへと向かうアリスの前にヴァランティーヌが立ち塞がる。彼女は慎重よりも執念を優先する。

「ヴァランティーヌ、君の出番は終わっている」

「私に指図するの?」

「いや、忠告だ」

「みゃおー」

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その時、猫の鳴き声がヴァラティーヌの背後から聞こえた。背筋が凍るという感覚を得たのはいつぶりだろうか。まるであの時のように……ヴァランティーヌがそう思った瞬間、彼女の五感全てが閉ざされていく。

「何なの、これは」

シュレディンガーの作り出した、箱の結界。その中に閉じ込められたものは、世界を不確定にされる恐怖に心を取り込まれる。

「やめなさい!や、や、やめ……」

アリスはヴァランティーヌを箱の中へと封じ込めると、その叫び声を気にもせずにラピスへと向かう。

「アリス!」

ファリアとプリシアが現れたのは、その瞬間だった。

「もう侵食がかなり進んでいるな。このままでは戻れなくなる。早くアリスを止めなければ」

「待っていたよ」

ラピスはアリスを観察しながら、ファリア達に声を掛けた。すべてが予定調和であるかのように。そして、ファリアはそれに振り向きもせずに答えた。

「ラピス。アリスを止めたら、次はお前だ」

「ああ、歓迎するよ。さあ、第二幕の始まりだ」


ラピスの儀式は終わりを迎えようとしていた。

“聖魔大戦” 第5章へ続く

物語“聖魔大戦”