“聖魔大戦” 第5章-覚醒のギル・ラピス-

ミリアムの咆哮が天を揺るがした。

その咆哮から発せられる光弾は、遥か空にありこの世界を見下ろすアルハマートの居城へと向かって伸びてゆく。古代の魔術結界に覆われたそれは、本来ならば傷一つ付かない……はずだったが、竜化したミリアムの力はそれを容易に突き破った。

「アルハマート様。申し訳ありません」

「興味深い。ヴィオラ、力を差し出せ」

「はっ。私の力、アルハマート様のために」

リュラがミリアムにしたように、ヴィオラもその力のすべてを譲り渡すようにアルハマートへと溶けていった。

「ミリアム!」

ルミアが竜化したミリアムを見上げるとミリアムは軽くうなずいた。竜化してもその意思は存在しているようだった。

空が暗転する。光を遮り、空から現れたのは巨大な黒竜だった。

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ルミアは即座に理解した。あれがリュラの言っていた、遥か昔の世界を炎に包んだ竜化した魔導師なのだろう。圧倒的な存在と魔力。ミリアムは再び咆哮の光弾を黒竜へと向ける。しかし、それは黒竜が備える黒き波動にかき消され、その波動は分散し、ミリアム達の元へと黒い雨となって降り注いだ。

「危ない!」

ルミアが光と炎の螺旋を放つ準備に入る。

「大丈夫だから。ちょっと下がっていて。光の雨!」

その時どこからか声がした。どこからともなく精霊達が現れるとその力によって黒い雨を受け流していく。アルメリアスの精霊術の一つだった。

かぐや、シャルロッテ、ゼロ、グラスバレスタ、アルメリアス、そしてミレストがミリアム達へと合流したのだった。

「あれが、フィースシングの仇か」

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アルメリアスは空に浮かぶ黒竜を見上げながら問う。

「で、アレをどうやって倒す?」

アルメリアスの率直な疑問にすぐに応えられるものは居なかった。

「私が隙を作ります」

わずかな静寂の後、かぐやが十二枚の綺羅びやかな衣装を身に纏い答えた。

「この宝具は十二単衣といい、相手の攻撃の強さに関わらず1回の攻撃に対して1枚が受け止め完全に破れることでその攻撃を無効とするものです。どんな小さな攻撃でも破れてしまうため通常戦闘には向きませんが、ここででは有効なものでしょう」

「ただしそれだけではあの黒竜を倒すことは出来ません。ミリアムが放つ一撃のみがあの黒竜を倒しうるのでしょう。私達があの黒竜の攻撃を受け止めながら隙を作ります。そうしたら、ミリアムは渾身の力で彼を討ってください」

再び黒竜アルハマートが羽ばたいた。たったそれだけの動きであたりの弱い生命は死滅していくようだった。

「アルメリアス、ミレストは私と共に。グラスバレスタとゼロはミリアムを守護しながら、後を付いて来てください」

かぐやは六賢者へと指示を出すと共に空へと飛び、その後ろにミリアムが続いた。

「黒雷」

アルハマートの言葉が響く。

黒竜形態となった今、この黒雷の威力は人間形態のそれとは比較にならなかった。

「ミリアム、離れないで」

黒雷が銃弾のように降り注ぐ。その1つ1つが当たれば致命傷となる一撃だった。しかし、かぐやの宝具十二単衣がその1枚1枚で雷1つ1つを無効化していく。物質を完全に破壊させることで破壊という概念を相殺するこの宝具のみが成し得る芸当だった。

「もう少し」

アルハマートまであと少しというとこで、最後の十二単衣が黒雷によって弾け飛ぶ。しかし、まだアルハマートの回りには黒雷は残されていた。こうなれば……かぐやは覚悟を決める。

「かぐや、それには及ばないよ。私達を復活させた意味ちゃんと分かってるから。大丈夫。無理をしすぎなければ魔石に還るくらいで済むからね。前の戦いの時と一緒。ミレスト、いいわね」

無言の肯定が炎となって揺らぐ。そして、光と炎がアルハマートへの道を作った。

しかし、それでもなおアルハマートに隙は無かった。このままでは、次の黒雷がすぐに現れてしまうだろう。

「グラスバレスタ、ゼロ、私が隙を作ります。その隙にミリアムと共に全力で彼を討ってください」

「しかしお嬢、どうやって?」

「時の扉」

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「お嬢、それは!」

かぐやがそう詠唱すると、グラスバレスタの動きが止まる。いや、グラスバレスタだけではない。世界の全てが止まっているように見えた。

厳密には世界の時の流れを極端に遅くするかぐやの術法だった。その中でまともに動けるのはかぐやのみだが、術者への異常なまでの体と心の負担をもたらす術はかぐや自身が使用を禁じていたものでもあった。

かぐやはアルハマートの回りに宝具を展開すると、宝具によって結界を張り巡らす。そして時が元の速度に戻ったとき、それらは360度からアルハマートへと攻撃を開始した。

「ほう」

アルハマートの余裕は崩れない。どの攻撃もアルハマートに致命傷を与えられるものではなかったが、一瞬の隙を作るには十分だった。

「ミリアム。今だ!」

ゼロが叫ぶ。それに応えるように、ミリアムはすべての力を込めて咆哮した。

……

アルハマートの体から、意識を失ったヴィオラが分離し落下する。

そしてアルハマートも形を変えようとしていた。より完全な力を持った形態に。ヴィオラが分離したのはダメージを負ったためではなく、この形態へ移行するのに耐えられないからだった。

「存外、手こずらせてくれる」

無限の魔法力を持つ最終形態。アルハマートの力の根幹はそこにあった。そしてそれを見た誰もが思った。

まもなく世界は終わるだろうと。

しかし、その形態を完成させるために僅かだが時間が必要となる。ほんの一瞬。知らない者にとっては隙とさえ思えないほどの。だがそれを知っているものにとっては最初で最後のチャンスでもあった。

空中に魔法陣が出現すると、一つの戦場がここにそのまま移転する。ラピス、レイチェル、ファリア、プリシア、そして、アリスが、空間ごとこの地へと移動して来たのだった。

「この時を待っていた」

ラピスはアルハマートへと動く、その手に完全なるエクスカリバーを持って。

「これほどの物質を瞬間移動させてくるとは。ラピス、今までのそれではないな」

「儀式は成った。そして確信した。今の僕の力とこの瞬間ならば、あなたを討てると」

そして、ラピスのエクスカリバーがアルハマートを貫いた。

「安心してお休みください。父上」

「憐れな、お前は…まだ、自分が私の息子だと……そう思っているのか」

「いいえ。でも、同じことですから」

エクスカリバーに貫かれアルハマートは、自身の魔法力に耐えられず体が空中に霧散していく。

「アルハマート様!」

レイチェルが叫び、その軍団がラピスへとなだれ込む。

「もう遅い。顕現せよ、ユグドラシル!」

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ラピスの詠唱と共に巨大な樹が世界を覆うように迫り上がる。アトラクシアを支えていたユグドラシルが、ラピスによってこの世界へと召喚される。禍々しく変貌したそれはレイチェルとその軍団を巻き込み、吸収しながら成長していった。

「アルハ……マート……様」

「さあ、パーティーの始まりだ。では、そろそろ主役を交代して貰おうか」

ラピスはアリスの方を向く。

「貫け、エクスカリバーオルテナティヴ」

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エクスカリバーが生き物のように飛来する。結界をいとも簡単に切り裂いたそれは、アリスの体へと突き刺さっていたのだった。


新世界童話 リ・アースへ続く


物語“聖魔大戦”