零夜の物語|第1夜 “時還(ときかえり)”

ルミアが空を見上げると赤い月が浮かんでいた。その意味は確か……月からの“警告”

ルミアはニャルラトホテプの最後の言葉を思い出していた。何も無ければそれでいい、だが、彼女が最後の時にわざわざ伝えたかった事と考えると、それが“嘘”とは思えなかった。

『ラピスは倒したはず、まさか……これから、何かが起こるというの?』

そう、ラピスはミリアムが倒した。すべての敵はいなくなった、そのはずだった。ルミアは不安を搔き消すようにそう自問する。だが、その不安は黒い霧のように広がり、消えることはなかった。

………

その頃、シェヘラザードは孫悟空を報告のために返した後、久遠の塔を訪れていた。彼女は自身の未来の物語がここで遮られているのを感じ取っていた。未来を否定するもの存在。そして、竜の巫女、フルートがここに居た。

『あなたが未来を遮るもの……それならば、私の物語に封じさせて貰う。いいかしら?』

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『はい、覚悟は出来ています』

フルートいう少女は力の器に過ぎない。誰かの意志が介在して初めて意味を持つ力。だが、力そのものは余りにも強大で、使い方を間違えれば、世界を滅ぼしかねないものだった。

シェへラザードの目的はフルートの持つ力の封印。千夜一夜物語の最後のページは空白のページだった。そこへ封印されたものは、物語上のものとなり、シェヘラザードによって力を封印される。

『待ちなさい』

そこに2人とは別の声が響く。

現れたのは……かぐやだった。1000年前、地球の記憶からかぐやをこの世界へ解き放ったのはシェヘラザードだ。だが、解き放った物語はもう制御下にはない。彼女はそこから自分の意志で1000年の時を生き、仲間と共に戦い、そして、ここに来たのだった。それが意味するもの、それは……。

『あなたが未来を遮るものなのね。かぐや』

一つの残酷な真実。

『未来を遮る? 私はその子の力を少し借りるだけよ』

2人の間に緊張が走る。

『かぐや!』

さらに、そこに現れたのはかぐやの後を付けていたルミアだった。

『ルミア、何故ここに?』

かぐやはフィースシングの墓参りに1人で行きたいと言ってここに訪れていた。ルミアが後を付けてくる理由はないはずだ。

『言われたのよ、ニャルラトホテプにね「“かぐや”に気を付けなさい、“あれ“は嘘をついている」って、最初は何の事だか分からなかった。でもね、メルフィから聞いたの、ニャルラトホテプに施されたクトゥルフの封印は急速に解けかかっていたって、あなたはクトゥルフを封印した時の姿へと戻ったというのにね。それなのに何故“封印”の力が、それも急速に失われつつあったのか?その答えは、あなたはただ“成長”したのよ。見かけは転生前のかぐや、でも今のあなたは子供の心を持ったかぐやが“成長”しただけ。ラピスを倒す力を得るために、封印の力を犠牲にしてね』

ルミアがかぐやに剣を突きつける。

『でもね、それはいいの。結果的にラピスは倒せた。だけど、何故それを隠すの? 言いなさい、かぐや、何を考えてるの?』

『そっか、バレちゃったか』

かぐやは笑う。しかし、その場の緊張感は増すばかりだった。

『あのね、私は決めたんだ、フィースを救うって。フィースが犠牲になって、新しい世界で生きるなんて私は出来ない。だってそうでしょ? 強くて優しくて、そんなフィースが死んだ。あの時、私が犠牲になればよかった、でも、私は生きている。だから私が救わなくちゃいけないの、それが私の使命。それに、その覚悟も私にはあるの』

かぐやは一呼吸置いて、言葉を繋ぐ。覚悟を決め、自身の決意を確かめるように。

『私のすべてを犠牲にする覚悟が』

かぐやの右腕はいつの間にか黒く変色していた。それはラピスのエクスカリバーに宿っていた絶望の意志の力だった。

かぐやはラピスとの戦いで“時還”の力を使いラピスのエクスカリバーを封じたのではなかった。使ったのは時間を吸収する力。かぐやは自分を器にしラピスのエクスカリバーが黒い意志を得るに至った時間を吸ったのだ。それが自分の意志を闇の方向へと増幅してしまうのを知っていて。むしろそれを望んで。

『私はフィースが死んでから時を戻す方法がどこかに隠されていないかって、ずっと考えてた。そして、御影の記憶の深層から力の存在を知った。“時還”の力、それはフィースを救う最後の希望……だから』

『これはあなたの手に負える力じゃない。不完全な魔力、不安定な精神で使えば、世界を滅ぼすことになる』

シェヘラザードがかぐやの決意を遮るように答える。

『言ったでしょ。私のすべてを犠牲にするって』

それに応えるように、かぐやの存在がさらに深みを増していく。深淵の闇へと沈むように。

『メフィストフェレス!』

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ルミアは魔法陣から素早く、メフィストフェレスを召喚する。

『もう1回頼みを聞いて。いえ、これが最後の頼みよ』

『用件は? ああ、そうだな、あそこにいる“化物”と戦うのは勘弁して欲しいな』

『アリスに伝えて、この星を他の“観測者“と一緒にすぐ逃げるようにと。無理矢理でいいから、お願いね』

『分かったよ。達者でな、ルミア』

メフィストフェレスは消えていった。

『巻き込ませちゃったわね』

シェヘラザードはルミアへと話す。2人に直接の面識は無いが、目的が一緒なのは明白だった。

『いいのよ。この世界の問題だもの。かぐやの目を覚まさせないと』

『来るわ』

かぐやがゆらりと動き出す。それが放つ力は純粋な願いが生んだ、悲しい闇。

『ここまでとはね』

物語のページを開くシェヘラザードが感嘆の声を挙げる。その手は僅かであるが震えていた。

『望みは力を生む、渇望されればされるほどに。でもねかぐや、止めなさい。お兄様もこの世界を守るために死んだわ。これから先は生きている私達が未来を作って行かなければいけない。フィースシングだってそれを望んでいたはずよ』

ルミアがかぐやに語りかける。

『グリムが死んだ? なら、それも死なかったことにすればいいじゃない』

かぐやが答える。死ななかったことにする? 

『そんなことができるわけ……』

言って気付く。振り向けばフルートが怯えるようにこちらを見ていた。可能なのだ、この子が持つ力を使えば……ルミアは自分と同種の再生の力をこの子に感じていた。それも桁違いの力を。これが時を戻す力なのだろうか。だがこんな巨大な力、制御出来るはずがない。

『本気で止めなきゃ……ね』

ルミアは覚悟を決める。

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『ルミアも私と一緒に行こう?』

かぐやがゆっくりと近づき、そして、闇が光を包み込んだ。

零夜はこの戦いの一部始終を次元旅団の小さな星から見ていた。既にリ・アースはフルートと融合したかぐやの力によって、過去への再構成を始めている。リ・アースを包む結界はあまりにも強力で、外部からの干渉を受け付けない。零夜は戦いの衣装と剣を身に纏うと動き出す。あの星から脱出した者達がいる、蒼き光を放つ星へと向かって。


“零夜の物語” 第2夜に続く

零夜の物語

FoW World - ストーリー

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