零夜の物語|第5夜 “時の亡霊”

小さな星に風の魔導師は突然に現れた。

『えっと、僕が"何者"か知ってる人、ここに居る?』

『質問に答える前に力を試させてもらってもいいかしら?』

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その場に居た、零夜がそれに答える。

『いいけど、どうするの?』

『こうするの』

目にも止まらぬ速度で少女は剣を抜く。いくつかの幻影と実体が混ざり、幾重にも見える剣の軌跡はあらゆる死角からその魔導師へと襲いかかる。しかし、その魔導師はそれらをすべて紙一重で躱していた。いや、風の魔導師は一歩も動いていない、小さな風で剣の動き自体に最小限に干渉し逸らしているのだ。一分の無駄も無く。

『その力、あなたの自身はどう捉えてるの?』

『そうだね、僕は僕であって僕ではないということかもしれない。言うならば、時の亡霊。これでいい?』

『いえ、私を倒せたら……』

『そう、じゃあ』

その言葉を言い終えるや否や、魔導師は風を纏った手刀で少女の首を刎ねていた。コロコロと転がる少女の首の目は開いたまま、魔術師を見ていた。そして

『合格ね』

声と共に、首だけになった少女は口を開く。体は首を取りにとことこと歩き、そして、首を元の位置へと戻した。

『簡単に首をはねてくれるわね、死んだらどうするのよ』

『簡単には死なないって分かってたさ。僕の直感は外れたことがない。本気で切り刻めば別かもしれないけどさ、試してみる?』

『遠慮しておくわ、これでも痛いのよ。あなた、自分の直感を完全に信じられるのね』

『生きるってそういうことだから。いや、僕は死んでるけど……まあ、死んでもそうだってだけさ。シェヘラザードは?』

『シェヘラザードは居ない。かぐやに取り込まれてしまったから。だから、あなたの知りたいことは私が教えてあげる』

『話が早くて助かる』

『私は御影零夜』

『よろしく、僕の名前はフィースシング。フィースでいい』

『ええ、フィース』

目覚めたフィースシングの力は、圧倒的だった。本気では無い手合わせであったが、零夜はそれを感じていた。しかし、それでもかぐやを止められないだろう。それほどに時還の呪いは強固にかぐやとあの星に絡みついている。零夜はそう感じていた。そして、零夜もまた自分の直感を決して疑わない。

『かぐやを救いたい。それで手を貸して欲しいんだけど』

『分かりました』

『素直だね』

『私にもそうしなければならない使命があるというだけです。ただし、最初に言っておきますが、私は救いたいという気持ちはありません』

『じゃあ、零夜はどうやって"かぐや"を倒すつもりなのさ』

『私はあの星の中で過去に遡りながら、かぐやと戦い続けます。そして発動者である、彼女を殺す』

『零夜は僕の事を待っていたの?』

『ええ、あなたならば、あの世界から脱出できる可能性があると考えていました。かぐやがそれを望み、あなたにその力があると私は考えていたのです。また、時還の世界で作られたものを打ち破るには、"時還"による呪縛から解き放たれている存在が不可欠です』

『そうだね。僕もそれは感じた。かぐやはあの世界の中では無敵に近いだろう。唯一倒しうるとすれば、外部からの干渉による何かが必要だ』

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『あれは、星に蓄積された歴史を喰らう、病原体のようなもの。喰らえば喰らうほどにその力は大きくなってしまう。私はその力が強大になりすぎないように、あの世界へ入り"かぐや"と戦い続けます。いざとなれば、あの星の歴史をなす人々を私の眷属として取り込んでいってもね』

『だけど零夜、君の力は不死身に近くとも、無限ではないだろ? それに、どう止めようとも、かぐやの力は徐々に強大になっていく。必ず止めようのないデッドラインは訪れる。僕が考えるにそのデッドラインは』

『10000年前』

『分かっていたんだね』

『10000年前には彼が居ます。ギル・アルハマートが』

『彼はかぐやに吸収される前に自分でその存在を消した。かぐやに直接存在を吸収されれば時還の力が干渉し、その存在は過去に遡っても登場しないように修正されてしまう。彼は過去の自分にかぐやの打倒を何らかの方法で託そうとしている、そこが戦いのデッドライン。いやおそらく、かぐやを倒しうる最初で最後のチャンス』

『今、考えられる最善の策。それは、私がその世界で、アルハマートの存在をかぐやより先に"吸収"し、その力で魔女を迎え撃つことです』

『そうだね。僕は僕の方で準備を進めるよ。僕は時還の力によって蘇っている以上、安易に入ればまた縛られてしまうだろう。あの世界に入るには、僕にとって最適な器が必要だ。だが、それさえ見つかれば、今の僕の力ならそちらへ行ける。そうだ、一つ聞きたい。この戦いが解決したら零夜はここに戻って来られるの?』

『いえ、多分戻ることは叶わないでしょう。それに戻るつもりもありません。それは、かぐやの望みによって救われたフィース、あなたも同じことです。分かっているでしょう?』

『分かってるさ。だからやり遂げなくてはいけないってこともね』

『ええ、私も同じです』

そして零夜はリ・アースの結界の中へと消えていった。

“零夜の物語” 第6夜に続く

零夜の物語

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