零夜の物語|第7夜 “赤い月”

『グリム、あなた、妹が居なかった?』

赤いずきんを被った少女が聞いた。その頭上では、赤い月が空に浮かび、夜の世界を不穏に浮かび上がらせる。

『僕は一人だよ、兄弟も居ない。童話が遊び相手だったから、寂しくは無かったけどね。何でそんなことを?』

『いや、何でかしらね、聞きたかっただけ、ふふふ……嘘じゃないよ』

赤いずきんの少女も、何故それを聞いたか分からなかった。世界の危機を救うために、グリムを助けている。それ以外の目的は無い、そのはずだった。

『この塔の頂上から、天空の城へと出られるわ』

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グリム達が目指しているのは天空へと浮かぶ城。そこへ繋がる塔を登っていた。最初は、伝承の吸血鬼ドラキュラが蘇り、グリム達はその居城へと向かったのだが、そこへ辿り着いたときには、もう"何者"かによって、ドラキュラ達の存在は消されていた。そして、そこには血文字によって、伝言が残されていたのだった。

"天空の城で待っている"と。

『ここに転送装置があるから、それで、天空の城へ行けるわ』

『何故そこまで知っているんだい? 君は一体何者なんだ』

『ふふふ……私はただの赤ずきんよ』

その時だった。

『クスクスクス……嘘付きは針千本の—ます』

塔の頂上へ辿り着いた2人の前に、純白の聖女を思わせる女性が現れる。聖女と呼ぶには余りに不似合いな笑い方をしながら。

『君は誰だ?』

グリムが問う。

『忘れちゃったの、ひどいな……お兄様』

『お兄様? 一体、何を言っている。君も赤ずきんも』

いつもは戯けて見せる赤いずきんの少女は真剣な顔をしていた。

『グリム、先に行って。転送装置は動いているみたいだし。あいつは私がやるから。いや、やらなきゃいけない、そんな気がするの』

グリムが心配そうに赤いずきんの少女を見ていた。相変わらず、お人好しね。そういうところ嫌いじゃ無かったわ。少女はそう思う。あれ、前にもこんな事があったかしら? ふふふ……自分の思考に疑問を投げるなんて、私らしくないわね、少女は少し笑う。ただ、確かな事はグリムを天空の城へと無事届けなければいけないという、使命感にも、贖罪にも似た思いに駆られていることだった。

『大丈夫よ。私は誰でもない、赤ずきんだから』

そう言いながらも、少女はもうグリムに会えないだろうと予感していた。この相手は、それほどまでに"危険"だ。童話の狼のようにやさしい相手ではない。

『ああ、空の月が赤い。懐かしいわ、懐かしすぎて……この世界を飲み込んでしまいたくなる』

聖女の純白の衣装が黒く染まっていく。まるで、希望を失った人の心のように白から黒へと転化していった。

『おばあちゃんの皮を被った狼って言ったところね』

『クスクスクス……あなたこそ。早く、こちらへいらっしゃい、赤女。思い出したの、話したい事はいくらでも残ってたから』

『遠慮させて貰おうかしら、話し相手なら間に合ってるから。だけど、いけない狼は……私が狩ってあげる!』

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『私の名前はアミル。さあ、絶望へと沈みなさい』

それが、グリムは聞いた最後の会話だった。気付けば、グリムは天空の城へと辿り着いていた。崖下には黒く淀んだ雲が見える。

『ようこそ、童話の王子様』

吸血鬼の少女がそこに居た。彼女はこの世界のものとは思えない、不思議な雰囲気を纏っていた。敵意は何故か感じられない、彼女があの場所に書き置きを残したのだろうか?

『あなたには妹が居た。彼女は世界を愛し、平和を願っていた。それは後一歩の所で成し遂げられるはずだった。でも、最後の最後で破れた。世界は希望から絶望に反転し、彼女もまた、絶望の化身に取り込まれた。そして、その存在は過去からも消え、この世界にあなたは1人で生まれた。でも、思い出せるでしょう。あなたなら』

『何を言って…』

そして、グリムの頭に聞いたこともない名前が浮かぶ。

『ルミア?』

『そうよ』

名前を言ったその時、ルミアとの思い出が物語のようにグリムの記憶へと流れ込む。

『そうか、さっきのが僕の……どうすればいい?』

『私と共に過去へ向かい、この絶望の螺旋の元凶である"時還の魔女"と戦って欲しい。本物の赤ずきんも一緒に』

『本物? ならば、僕が今まで一緒にいた、彼女は何者だ?』

『嘘もまた、思い込めば真実となる。彼女はこの世界では、あなたを守る“赤ずきん“だった。それだけよ』

『分かった。僕も行こう。君と共に』

『私が信じられるの?』

『君の言葉に嘘は無い。それぐらい僕にも分かる。だから救いにいく、僕と共に居た"赤ずきん"と妹のルミアをね。だから、僕の存在を……君に預ける』

赤い月がグリムを照らす、その目に迷いは無かった。

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“零夜の物語” 第8夜に続く

零夜の物語

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