零夜の物語|第8夜 “六賢者”

そして、さらにこの世界は1000年の時を遡る。クトゥルフの襲撃、後世に魔石戦争と呼ばれる戦いのその時に。

光の魔術師ゼロは同じ師に教わった仲間達と、突如表れた魔物との決戦へと向かっていた。

しかし、どこからともなく現れた黒い吸血鬼と闇の軍勢が、クトゥルフと呼ばれる異形のもの達を一瞬で消滅させたのだった。ゼロ達が異変を聞きつけ、駆けつけた時にはもうすでに戦いは終わっていた。

『零夜、終わったよ』

黒いずきんの少女が言う。

『ご苦労様。早かったわね』

零夜と呼ばれた少女がそれに答える。

『“この歴史では、嘘つきの"あいつ"が敵に居ないからね』

そういうと、ゼロの方へと向き直る。

『私は零夜。あなた達6人の敵ではないわ』

『6人?私達は初めから"5人"だ。だが、それはどうでもいい。お前達は何者だ』

ゼロがそれに答える。

『フィースの居ない、この"世界"ではそうだったわね』

『おかしな事を言う。質問に答えて貰おう、敵ではないと言うならば、お前達の目的は何だ?』

アルメリアス、ムージュダルト、グラスバレスタ、ミレスト、そして、ゼロの5人が零夜の周りを取り囲む。

『それを話している暇は……無さそうね』

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零夜が空を見上げる。その瞬間、日の光が閉ざされ空が陰った。咄嗟に5人も空を見上げる、そこには巨大な何かによって光が遮られた太陽が見えた。太陽を覆うもの、それは巨大な躰、手足を持つ生物が、空から落ちて来ていたのだった。一体どこから……それを考える暇もなく、その生物は加速度的に速度を早めて落下している。数秒もすればここに落ちてくるだろう、受け止めるか破壊する? いや、無理だ、あの質量、避けなければ潰される。

『みんな捕まって!』

アルメリアスが風の精霊を呼び出し手を伸ばした。5人はそれに捕まると間一髪で、その生物の落下の直撃を免れる。それでも、衝撃波が風に乗って伝わり、その生物の重さを物語っていた。
その生物が落ちた場所はクレーターのように変形していた。あの落下では無事には済むまい……ゼロがそう思ったのも無理はないだろう、だが、巨大な生物の下から1人の赤い少女が現れる。埃にはまみれているが、傷一つない様子だった。しかも、驚くべきことに巨大な生物をクッションにした訳ではない。自らがクッションとなって、巨大な生物を衝撃から守っていたのにも関わらずだ。

『ふふふ……張り切りすぎちゃったようね。さて、この時代には、私の糧になりそうなのが、たくさん居たはずだけど』

『一体、何がどうなっている?』

ゼロはもとより、他の4人、魔石や世界の歴史を研究しているグラスバレスタにも状況は理解出来ていなかった。本来居るべき敵はもうおらず、明らかに規格外の化物がどこからともなく現れ続けている。もはや今必要なのは理解ではなく状況の確認だった。

『あなた、敵では無いと言ったけど、あの"怪物"はどっち?』

同じ事を思ったのだろう、アルメリアスが零夜に聞いていた。あの敵の力は未知数だった。強い魔力は感じられない。だが……感じられる脅威は今まで出会った敵の比ではなかった。

『敵よ。あなた達は死なないようにだけ集中して』

言葉からは、その程度の力では勝負にならないといった意味が含まれているようだった。

そして、ゼロが感じた脅威の正体。それは、魔力無しにあの質量の物体を落下の衝撃から支えたということに他ならない。もし、それを単なる膂力によって可能にしたのなら、それは信じがたいレベルの力と言える。

『これくらいの衝撃で気絶してるんじゃ、恐竜ってのも思ったよりも使い物にならないな。まあ、尖兵としてくらいは使えるか。仕方ない、ここは私が片しちゃおう。私の糧になりそうな奴らも先に始末されちゃったみたいだし、代わりにあなた達を頂くとするわ』

少女が獲物を見るような眼でこちらを見た。

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『ふふふ……最初に言っておくけれど、私はあなた達よりも、遥かに遥かに遥かに"強い"。もちろん、嘘じゃないよ!』

赤い少女が地面を一蹴りすると、その衝撃で世界が大きく揺れる。そして、間合いを瞬時に詰められたアルメリアスに強烈な蹴りが飛んだ。常時展開している魔法障壁によってガードしたかに見えたが、障壁は赤い少女に触れると、まるで中和されるかのように消えて無くなった。

『嘘が真実となれば、真実は嘘となる。こんな障壁、クズ同然よ』

『な…』

そして、次にゼロが見たときには、アルメリアスが派手に飛ばされた後だった。あまりにも動きが速すぎる。いや、速いなんてものじゃない、間合いを詰めて、障壁を消し、そこからは攻撃の視認さえ出来無かった。ただ、こちらも黙って見ている訳ではない、ミレスト、ムージュダルト、グラスバレスタの3人が同時に攻撃を仕掛ける。三方向からの攻撃に逃げ道はほとんど無い。唯一空いているように見える逃げ道にはゼロが構えている。誰かが攻撃されたときは3人で反撃し、もし、逃げられたとしても、体勢の崩れた相手にゼロの一撃を叩き込む。師匠のウェルザーじいちゃん(そう言うと怒るが)から教えられた、必殺の布陣だった。

しかし、赤いずきんの少女はかわす素振りすら見せない。3人の攻撃が直撃した……ように見えた。

だが、そこには何も居なかった。赤いずきんの少女はいつの間にか空に浮かんでいた、片手を挙げたその先には黒い球を携えて。
『私を捕まえるのは不可能よ。これは黒い月、かっこいいでしょ? さっき見つけたから、私のものにしたのよ。さあ、全員纏めて、イキなさい!』

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黒い球があたりのものを吸い込みながら、こちらへと迫ってくる。私以外の“六賢者”はすでに力を消耗しきっている、しかし、いざとなれば、自らの体を魔石に変化させ、危機を回避出来るはずだ。

『思い出して。あなたの意志を、そうすれば、また、戦えるはず』

黒いずきんの少女がいつの間にかゼロの隣にいた。そして、零夜も。そうだ、私は何を思った? 六賢者?

『この私はあなた達でも決して止められない。この作られた世界で戦う以上はそう出来ている。それが残酷な真実』

空に浮かぶ、赤いずきんの少女が黒球に力を加えながら言う。作られた世界?

『そうね、ニャルラトホテプ。でも、勝てなくとも抗うことは出来るわ』

『私の名前はスカーレッドよ。間違えないで』

零夜は自らの血飛沫で力を強化すると、黒球を一時的に止めて見せる。そして、赤いずきんの少女へと問う。

『さっきのは短時間の時間跳躍。あなた、かぐやから力を借りて来たわね』

『へぇ、見えたんだ。本来は過去へ戻る魔術を戦闘用に使えるようにしたものなんだけど、跳躍というより、時間を削る能力にね。ふふふ、かっこよかったでしょ?』

過去へ戻る? こいつらはさっきから何を言っている? まさか……

『お前たちは未来から来たとでも言うのか? 何故だ、歴史をやり直すために?』

『半分正解といったところかしら、ゼロ、あなた、私に付いてくる気はある?』

零夜の眼が輝く。その眼差しはゼロの記憶に在りし日の未来、本来あったはずの歴史を流れ込ませた。かぐやにフィースシング、知らないはずの、だけど、大切な人々、そして、たしかに居たのだ"六賢者"は。

『そうか、この世界はもう……私も行く。いや、行かせてくれ』

『分かったわ、でも、時間が無いから、そのままの姿では無理ね、一旦……』

『あれにか? むぅ、仕方がないな』

黒球はゼロを飲み込むことなく、そして、最後には弾け飛んだ。そこにはもう何も残されて居なかった。

『逃げられたか、それにタイムアップ、ふふふ……しょうがないね。さて、大した力にはならないだろうど、一応貰っておこうかしら』

赤いずきんの少女は魔石となった残りの六賢者達を拾い上げると、口を開けそれらをごくりと飲み込んだ。


“ギルの物語” 第17話へ続く

零夜の物語

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