“月下の覚醒者” 第2章 解放

ギル・ラピスは昇りゆく日をただ眺めていた。その姿はまるで、世界の始まりを確認しているようだった。

『アリサリス、シルヴィアからの報告は?』

ラピスがアリサリスへと問う。

『はい、彼女達の力は到底、王に及ぶことはないと。ただ、彼女達はジ・アースの生き残りであろうということです』

『そうか、あの次元のか。それは探す手間が省けたな』

たいして気にも留めずにラピスはそう答える。

『この次元も同じような運命を辿るというのに。さて、もう少しこの箱庭で起こる事象を眺めるとしようか』

ラピスの傍にはある次元だったもののレガリアが置かれていた。かつて、地球と呼ばれたレガリアが。

そして、場所はシャングリラへ。

『じゃあ、まずは、シャングリラを押さえちゃえばいいのね』

『ヴァランティーヌ様は各地へと支配を広げるために遠征しています。しかし、その補給や戦力の元はこのシャングリラに集中しています。ここが生命線であることに変わりは無いのです』

『よし、じゃあ、マリーに頼んでぶっ壊して貰おう! マリー行ける?』

『はい、壊すのは得意分野です』

『ちょっと待って、待ってください!  この国の人達には罪はありません。私がこの国の人たちに話してみます。ヴァランティーヌ様の野心と圧政は誰も望むことではないのです。その兵士の多くも恐怖と魔力によって支配されているに過ぎません』

『じゃあ、どうすればいいの?』

『私が反乱軍を組織して、この国を‥‥』

『乗っ取っちゃうんだね!』

『ええ、そうとも言うかもしれませんね』

『うん、いいと思う! マリーもそう思うよね!』

『はい、とてもいいと思います』

『だね!』

シオンとプリシア、そして、マリーベルはシャングリラで作戦会議を行っていた。作戦会議とは言え、その多くはシオンの提案をプリシアとマリーベルが賛同、というよりも、絶賛する形で進んでいった。プリシアにとって作戦はヴァランティーヌをぶん殴る以外のことは深くは考えてはいなかったため、まさに渡りに船、獣に知恵と言ったところだったのかもしれない。

『それで、シオンの歌を聴かせれば、ヴァランティーヌの暗示は解けるってことね』

『はい、恐怖で人を支配する、というのは一度解かれれば逆流し大きな怒りへと転じます。私達でこの国を解放する必要はありません、私の歌で、彼らの心を解放すれば、自然とこの国はヴァランティーヌ様の元を離れていくのです』

『それなら、さっそく、行こうか』

『ただ、それには、民衆を集めなくてはいけないのですが‥‥』

『そういうことなら任せて、シセイの森で遊んでいたときから、動物を集めるのは得意だったから、マリーも居るし、簡単、簡単』

『あの!』

『お礼なら後でいいから!』

『いえ、街は壊さないでくださいね』

プリシアは大丈夫だってと笑いながら言うと、街から少し離れた公園へとシオンと共に向かった。

『この辺でいいかな。それじゃ、マリー、やるよ、私とシオンを肩に乗せて、立ち上がって』

マリーベルが立ち上がると、プリシアとシオンは街を一望出来る高さまで昇った。

『聞いていませんでしたが、何をするのですか?』

『えっとね、思いっきり叫ぶだけ! 私の声の大きさってすごいんだよ、それこそ、森中の獣達に呼びかけなきゃいけなかったから。シオンは耳塞いでて!』

『えっ、ちょっと待ってください』

『さあ、街のみんなー、私の話を聞いて! この世界は誰のものでも無いんだよ! みんなは自由なの! ここに来て、話と歌を聞いて! みんなぁぁぁあつまれぇぇーー!』

プリシアの声は、途方の無い大きさでシャングリラの街へと響き渡った。この声だけならば、誰もその関心をどこかに集中させることは無かったかもしれない、しかし、声の方向にはとても大きな機械のロボット、マリーベルが居たのだった。声を聞いた、シャングリラの防衛軍は急いでその場へ向かい、民衆をそれを見ようと押し寄せていた。そして、その人々が集まったとき、今度は凛として声が響き渡たった。

『皆さん、聞いてください。私の歌を、そして、解放を望む皆さん自身の心の声を』

シオンの歌が響き渡り、そして、ヴァランティーヌのシャングリラの支配は‥‥解かれた。

そして、再び場面は転換する。

『そろそろ、僕の元へ来るだろうね、彼女は。人生の始まりと終わりの間は余りにも短い。だからこそ、しがみ付くのだろうか。アリサリス、シルヴィア、そろそろ始めようか。この世界の終わりを』


いつの間にか日は落ち、光は翳っていた。光は世界を照らすが、深き闇は全てを飲み込んでいくようだった。


月下の覚醒者 第3章へ続く

2016年4月7日 木曜日

物語"月下の覚醒者"