“月下の覚醒者” 第4章 開戦

月に照らされた世界樹はその輝きを大きく増していく。

そして、大きな風が吹いた。この星の全てのエネルギーを運ぶかのような風。その風の先にアリスは居た。

『あれ、アリスだよね? やっと会えた!』

『あなたは……かぐや? 再会を喜ぶのは後、先にあいつを倒すよ』

『へへん、了解だよ!』

再会した、一つの光と一つの風がシルヴィアを追い詰めていく。

世界樹によって覚醒したアリスの力は圧倒的だった。シルヴィアの炎を受け止め、その翼を切り裂いていく。ドラゴンとなったシルヴィアの反撃の羽ばたきも、かぐやの月の魔法が無効化していく。そして、次の刹那、アリスのエクスカリバー・エクスがシルヴィアの体を貫いていた。

シルヴィアは地に伏し、人型へと戻ると、その体を徐々に消滅させていく。

『ここまでか……、あの星の生き残りよ、強くなったな。だが、あの方には遠く及ばない。ヴェル・サヴァリアへ行くがいい、この世界の運命を変えられると思うならな。さて、私の力と存在はあの方の元へ還るとしよう……』

シルヴィアが完全に消滅する姿を、アリスは無表情に見ていた。


その時、かぐやは思った。アリスはあまりにも強くなりすぎていると。その思いは喜びではなく不安だった。かぐやはかつて、永劫ともいえる宿命を背負って戦ったことがある。今のかぐやにはその記憶は残っていないが、刻まれた感覚だけは生まれ変わっても引き継いでいた。だから、かぐやは直感で思ったのだった、アリスはその身に大きなものを背負いすぎているのではないかと。

『アリス、もしかしてさ……感じ変わった?』

『……それは私のセリフよ。かぐや』

『えっ、そう?いや、そうだと思うけど! 実は私、昔のこと全然覚えてないから、あなたがアリスって分かるのも、そうかな?って思っただけなんだよね』

『私も懐かしい感覚でかぐやって分かったけど、見た目とか性格とか変わりすぎよ、どうしてそうなっちゃったの?』

『えっと、苦情は育ての親まで!私は悪くない!』

『育ての親ね……大体、想像出来るけど』

『そんなことより、アリスさ、うーんと、大丈夫?』

『ダメージは負って無いわ、大丈夫よ』

『ふむふむ……まあいっか、じゃあ、サクっと、悪の本拠地に乗り込んじゃおう! ベリーサバンナだったっけ?』

『ヴェル・サヴァリアね。行きましょう、世界樹の意思が、私の中に居るもう一人の私が、あいつを倒せって言っているの。この世界を守るために』

『そっか、じゃあ、早く終わらせないとね』

かぐやは自分の嫌な予感を気のせいと思いたかった。しかし、かぐやの直感が外れたことは、ない。
そして、本当の戦いはここシャングリラでも始まっていた。プリシア、シオン、マリーベルの3人はシャングリラの海岸沿いに居た。そこで、プリシアは生まれて始めて、深刻そうな顔をしていた。

『シオンとマリー、ここからは私に任せてくれないかな?』

『いえ、ヴァランティーヌ様がああなってしまったのには、私にも責任があります。私も行かせてください』

『プリシア、私もマスターの仇をとりたいのです』

『待って、二人にはシャングリラを守って欲しい。もし、シャングリラを空けて、ヴァランティーヌが戻って来たら、また、やり直しになっちゃうから。それに、私は七王の一人として、あの裏切り者を倒す使命がある。ファリアや他の七王の仇を討つこと、それは七王の私が、あの戦いを生き残った私がやらなきゃいけないんだ』

『でも、あなた一人では』

『大丈夫。今、世界樹から、大きな力が私に流れ込んできているのを感じる。世界樹はこの世界を守るため、いろんな人に力を分け与えているのかもしれない。世界樹の麓にあるシセイの森で育った私にも、ね。だから、今の私なら倒せると思う、ヴァランティーヌを』

『シクシクシク……プリシア』

『マリー、一緒に行くって約束したのにごめん、今回は連れていけない。私だけで行った方が、ヴァランティーヌに気づかれにくいと思うし。だから、泣かないで待っていてくれる?』

『シクシクシク……、いえ、違うのです。私はうれしいのです。プリシアがこんなにも立派になって』


『クスクスクス……』

『あ、シオンまで!』

『いえ、私はちょっと面白くて、プリシアとマリーっていいコンビですね。分かりました、私はマリーと一緒に、このシャングリラを守ります。この世界を再興するために、そして、プリシアの帰って来れる場所を守るために、ね、マリー!』

『はい、プリシア。安心して行って来てください、マスターの仇討ちをお願いします』

『うん、分かったよ! それじゃあ、行ってくる!』

プリシアは世界樹から授けられた力を使い、空へと飛翔した。心と体に炎の翼を宿して。

『シクシクシク……やはり、少し心配です。無事に……無事に帰って来てください、プリシア』

『……マリーって本当にやさしいんですね』

そして、ヴァランティーヌは、

『許さない。許さない。許さない許さない許さない許さない!』

一時は世界を手中に収めかけたその手には、もう、何も残されてはいなかった。シャングリラからの補給が断たれたヴァランティーヌの軍は支配する力を失い、各地で潰走していた。

『シオンめ。あの小娘がまさか裏切るなんて! 恩知らずが!』

ヴァランティーヌは激昂すると、グレイプニールであたりの木々を。家を、彼女を写していた鏡でさえも破壊していく。しかし、もう誰も、木々でさえもヴァランティーヌには従わない。

『ははは! いいわ、どんな手段を使ってでも、また手に入れてやる。世界を、そして、アリスをね』

割れた鏡には一人の窮鼠が写っていた。その姿にかつての覇王の姿は無かった。

月下の覚醒者 第5章へ続く

2016年6月15日 水曜日

物語"月下の覚醒者"