“光と影のアリス” 第2章 プリシアとマリーベル

泣いていた。
泣き続けていた。戦えなかった悲しみと、そして、守れなかった無力さで。

『ちっ、結界が切れる時間だわ。ヴァランティーヌ、後はあなたに任せるわ。ちょっと食べ残しがあるけど、もう、私のシュレディンガーはお腹いっぱいなの。ね、シュレディンガー』

『みゃお〜』

『食べ残し? ああ、放っといていいわ。ゴミをわざわざ潰す必要はない、真の覇王にはね。あなたこそ、アリスに逃げられてしまったけれど、大丈夫かしら?』

『それこそ、放っておくわ。今のアレに何が出来るっていうの?』

『じゃあ、私の好きにしていいわね?』

『好きになさい』

ダークアリスとヴァランティーヌが霊樹の丘から立ち去ると、空から降り注いでいた闇は消え、まるで、何も起こって無かったかのように、あたりには静寂が戻っていった。


『絶対に、絶対に許さないんだから、ヴァランティーヌ!』

しかし、その中でプリシアは生き延びていた。ダークアリスとの戦いで、アーラやファリア、マキナが倒れる中、彼女だけが生き延びられた理由。それは四聖の存在があった。彼女に同行していた四聖達は彼女を守り、そしてその代償として命を落としたのだった。

『あなたたちの仇は絶対に取るから、それまで、ここで待っていて』

彼女が四聖達の墓標を作り終えたとき、どこからか『シクシクシク』と泣く声が聞こえた。その声は機械的でありながら、どこか感情的にも聞こえた。

『どこからだろう?』

プリシアが声のする方を探索するが、人影のようなものは見られない。あるのは、荒涼とした丘、鉱石の山、それらを照らす、降り注ぐ空の光。

『誰もいない、空耳かな、でも、声ははっきり聞こえるようになっている』

『シクシクシク‥‥。マスター、ああマスター』

『やっぱり聞こえる、ねえ、私はプリシア、どこにいるの? 聞こえていたら返事して!』

『シクシクシク‥‥、私、あなたの目の前にいます』

『えっ、目の前って‥‥これ鉱山、じゃなくて、まさか、マキナが連れていた、でっかいお人形さん! 無事だったのね!』

『私、マスターに助けられて。結界によって動けない私を置いていけないと、でも、それでマスターはあの猫に食べられてしまったみたいで、シクシクシク‥‥』

『泣かないでよ、泣きたいのは私も一緒だよ、でも、泣いているなんて、あなたには心があるの? 機械って、こう、命令に従うことしか出来ないって思っていたけど‥‥』

プリシアはじろじろとマリーベルを眺める。シセイの森で動物とともに生きてきたプリシアにとって、機械は得体のしれない存在だった。しかし、目の前に居るこの機械からは、心の無い人形とは全く違うものを感じていた。

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『シクシクシク‥‥私は心を持った最初で最後の機械なのです。何故なら、私は実は‥‥』

『ちょっと待って、分かったよ! 私って難しいことぜんっぜんわかんないから、話しが通じるってことが分かっただけで十分だよ』

『そうですか、わかりました。プリシアさん』

『そうそう、それで、でっかいお人形さん、あなたの名前は?』

『私の名前はマリーベルといいます』

『マリーベルかぁ、じゃあ、でっかいし、ジャイアントマリーって呼ぶね!』

『プリシアさん。あの、それなら、マリーでいいです』

『あ、そう、いいと思ったんだけど‥‥。そうそう、私のことはプリシアでいいよ』

『プリシアさん‥‥では、駄目ですか?』

『駄目駄目! 私、あなたのマスターにはなれないけど、友達にはなれると思う、だから、私には、気軽に話しかけて欲しいんだ』

『そうですか、分かりました、友達というものは良くは分かりませんが』

『うん! それで、これからだけど、私は裏切り者のヴァランティーヌを倒したいと思ってる。だから、マリーも一緒にどうかな? とっても悔しいけどね、あいつは強い。多分、私一人じゃ、倒すことは出来ないんだ。だから、今は奴を倒せるだけの力を蓄えたいと考えてる、マリー、あなたも、マキナの仇を取りたい、そうじゃない? あなた、泣いていたから‥‥私も同じだった、だって、守りたいものを守れなかったから』

『でも、私は‥‥、マスターがいなければ、マスターがいなくてても力になれますか?』

『なれる! 私が保証する! 私だって、伊達に七王って呼ばれてないし、そのための友達だから! それに、ファリアは最後に言っていた、アリスが必ずあの、黒い奴を倒してくれる、だから、もし、この戦いで誰かが生き延びられたら、ヴァランティーヌを止めましょうって、それに、あの二人を倒したら、ファリアもマキナも戻ってこられるかもしれない』

『私、マスターが助かる可能性があるなら、この力、すべてを使ってでも惜しくはありません』

『うん、そうだね、私もみんなの仇を取ることが、今を生きる意味のすべて』

プリシアは普段のあどけない表情を捨て、今や世界となったヴァランティーヌを倒す決意を固めていた。そして、それが、どのような結果を生むのか、今のプリシアには知る由も無い。

『それじゃ、行こう、マリー。動ける?』

『はい大丈夫です、プリシア。そう、ヴァランティーヌに会ったら、まず、どうしますか? 友達として意見を聞きたいのです』

『決まっているよ、まずは思いっきりね‥‥ぶん殴ってやる!』


2016年1月28日 木曜日


物語"光と影のアリス"

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