“光と影のアリス” 第4章 シルヴィアの咆哮

世界樹の近く、荒涼とした場所で、2つの人影が戦っていた。その1人が作り出す炎の渦に、もう1人が飛び込んでいく。

『これが炎? ぬるいんだよ、始祖の犬が! シュレディンガー、召喚モード!』

炎の渦の中心に飛び込んだ人物、ダークアリスがシュレディンガーに話し掛けると、シュレディンガーの体から黒い瘴気が溢れ出していく。それに応じて、シュレディンガーの体はだんだんと小さくなり、代わりに、影の兵隊が生まれていった。

『言ってくれるな。だが、そんなものは所詮紛い物に過ぎない』

ダークアリスに相対するのは、始祖の王の眷属であるシルヴィアだ。迫る影の兵隊を確認もせずに、右手の炎剣を一振りすると、そこから発せられる熱と光によって影の兵隊は空中へと四散していく。

『へぇ、やるじゃない』

『お前こそ、ブレイザーを倒したという力、その程度ではあるまい?』

『ブレイザー? ああ、あの抜け殻のこと? 食べ応えなかったわよ、ねぇ、シュレディンガー?』

『みゃあ〜』

『でも今度は安心したわ。あなたは、とっても食いごたえがありそうだから!』

『それは光栄だが。あいにく、猫とじゃれあう趣味は無い』

『つれないわね。食う側と食われる側、世の中にはその2つしかない。あなたはどちら? ねえ、みんなもそう思うでしょう?』

ダークアリスが話す間に再び、影の兵隊がシルヴィアの周りを取り囲んでいた。シュレディンガーが四散した影を吸収し、そこからまた無数の影が生み出されていたのだった。

『影は無限に存在する。光に照らされようが、炎に燃やされようが、決して無くならない。すべてを喰らい尽くすまでは』

『奇遇だな、私の炎もすべてを焼き尽くすまでは決して消えない。それにだ‥‥』

言葉を言い終える間もなく、シルヴィアの全身から、熱風を伴った覇気が放たれる。影はまた四散し、シュレディンガーの周りへと返っていった。

『小手先の技では私に届かない。そろそろ、本気で来たらどうだ?』

『ちっ、上等じゃない。じゃあ、遠慮なく殺させて貰うわよ。行くよ、シュレディンガー、殺戮モード!』

『みゃおーー!』

シュレディンガーが尻尾を振ると漂っていた瘴気がシュレディンガーへと向けて集まっていく。その瘴気を吸い込むたび、シュレディンガーはまたむくむくと大きくなっていった。

『こうなるともう手加減できないから。痛くても泣かないでよ!』

ダークアリスが大きな鎌を掲げ、シルヴィアへと迫っていく。シルヴィアは右手の剣を両手に持ち変え、ダークアリスの攻撃を完全に受け止めた‥‥かに見えたが、その力に押され、後方へと大きく弾き飛ばされた。

『なるほど、先程までとは全くの別物‥‥力の拡散と集中、あの猫の仕業か』

吹き飛ばされながらも、シルヴィアの眼光はダークアリスとシュレディンガーを観察していた。

『あの猫が力の変換機というわけか。今は力を一点に、つまり、お前に集中させている』

『ご名答。分かったところでどうしようも無いでしょうけど。私はあらゆるものを吸収し、影としてきた。この世界の七王達もね。だからもう誰だって殺せるわ!』

ダークアリスがシルヴィアを追い詰めていく。荒涼とした丘の向こうには、深く大きな谷があり、その断崖にシルヴィアは立っていた。しかし、その眼光は既にダークアリスではなく、別のものを捕えていた。

『‥‥何か来るな。早めに終わらせるとするか』

『何か言った? もう、逃げ場は無いわよ』

『同じにされては困るな』

『同じ? ああ、あのブレイザーって奴と?』

『いや、ブレイザー、七王、不完全なもの達すべてだ。力に頼るものはより強い力に決して勝てないということを教えてやろう』

『何を言っているの? そろそろ、あなたにはご退場願おうかしら!』

ダークアリスが致命の一撃をシルヴィアへと放つ。集約された影は深き闇を作り出し、それが黒き槍となって、シルヴィアを喰らおうとする。しかし、その時、シルヴィアの体からは、膨大な光と熱が吹き出していた。

『いくぞ、はあぁぁぁ!』

シルヴィアの言葉が、雄叫びとなり、そして、咆哮となり、世界樹へと反響しこだまする。致命的と思われた、ダークアリスの一撃が空を切ると、シルヴィアの居た場所には、何も残されていなかった。ただ、とても大きな影が、ダークアリスを上空から覆っていたのだった。

『この姿になるのは何十年ぶりか』

『貴様ッ』

巨大なドラゴンとなったシルヴィアが羽ばたくと、そこから巻き起こる風がダークアリスを襲う。不意を突かれたダークアリスは態勢を崩し、その風は狙いしましたように力の源であるシュレディンガーを遠くへと運んでいく。

『しまった! シュレディンガー!』

『み、みゃー』

シュレディンガーがダークアリスの能力の「範囲外」に運ばれると、ダークアリスから急激に力が失われていった。

『ちっ、早く合流しなければ』

『この程度の力で、あの方に届くとは到底思えないが、目は摘んでおくにこしたことはあるまい』

間髪入れず、シルヴィアの口から吐き出される炎がダークアリスへと襲いかかる。ダークアリスは紙一重でそれをかわすが、その炎は生き物のようにうねると、再びダークアリスへと狙いを定めた。

『終わりだ。今のお前では私の真の炎はかわせない』

『舐めないでよ、シュレディンガーが居なくても、こんなぬるい炎!』

ダークアリスは身を翻し、再び炎をかわすが、炎の勢いは止まらない。服が焼け、焦げ付いた匂いがダークアリスをさらに不快にさせる。この炎をかわし続けることが出来ないのは、誰の目にも明らかだった。

『ふざけるな! こんな、こんな可能性ありえないわ!』

そして、シルヴィアの炎が再びダークアリスを焼き尽くそうと襲うその瞬間、まさに、ギリギリのタイミングで、それは間に合った。

『みゃお〜』

『戻った!? シュレディンガー! 召喚モード!』

間一髪、シュレディンガーから生み出された影の兵隊が炎の身代わりとなり、その隙にダークアリスは危機から脱出する。

『シュレディンガー、よく戻ったわ。一体、どうやって?』

ダークアリスがシュレディンガーの方に目を向けるとそこには、剣にちょこんと乗っかるシュレディンガーの姿があった、遠くへ飛ばされたシュレディンガーは何者かの剣に乗りここに運ばれてきたのだった。

『この剣は‥‥まさか!?』

ダークアリスが見上げると、シュレディンガーの先には聖王と聖剣の意志を受け継いだ1人の少女が立っていた。

『しっかりしてよね、もう1人の「私」』



2016年3月2日 水曜日


物語"光と影のアリス"

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